羽多野渉、寺島拓篤出演アニメが話題!「愛犬を亡くした経験から生まれた」心の傷に寄り添う謎の生き物との交流を描いた『きのこいぬ』誕生秘話【作者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/2/3

 愛犬を亡くした悲しみから立ち直れずにいるホラー絵本作家の夕闇ほたる。そんな彼のもとに突然現れたのは、犬のようで犬じゃない不思議な生き物“きのこいぬ”だった。きのこいぬはいつの間にか日常の中に入り込み、ほたるの心を少しずつほぐしていく——。

 可愛くて時々図々しい(!?)きのこいぬや、個性豊かなキャラクターたちによって温かな感動と癒しを届けてくれる漫画『きのこいぬ』。TVアニメでも「可愛いキャラクターと温かみのある世界観」「子どもから大人まで楽しめる」「疲れた時に見たくなる」などの声が上がり、新たなファンを獲得しています。2025年には原作漫画の続編連載も決定しているきのこいぬ。知られざる誕生秘話や愛おしいキャラクターたちの裏話を、作者の蒼星きままさんに伺いました。

●生態がよくわからない「きのこ」が題材に

——きのこいぬは自分の気持ちに一直線なところがあり、それが癒しと笑いを同時に生んでくれるようなユニークなキャラクターです。どのような発想から生まれたのでしょうか。

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蒼星きままさん(以下、蒼星):最初に描き始めた時(2010年)はキャラクター物っていう意識がなかったんです。その頃、昔のことでよく覚えていないのですが、悲しいことや傷つくことから再生していく人間の力はすごいなと感じていて。それを自分なりの視点で描きたいと思って漫画がスタートしました。

——キャラクターが先に生まれたわけではなかったんですね。

蒼星:はい。ネーム(構成を大まかにまとめたもの。絵コンテ)を編集さんに提出している時にちょうど愛犬が死んでしまって。すごく喪失感があってそのことしか考えられず、始まりがああいう形になりました。

——本作も、主人公の夕闇ほたるが愛犬のはなこを亡くしたところから物語が始まっています。もしかしたら、はなこの姿は愛犬の…?

蒼星:そのままです。うちの愛犬も真っ白な雑種だったので。描きながら愛犬のことを思い出すこともありましたけど、私の周りにはきのこいぬがいないので、その代わりに、周りにいる面白い人だったり、楽しい漫画だったり、そういったものにだんだん励まされていきました。私にとってのそういう存在が、この漫画ではきのこいぬだったのだと思います。

——“きのこ”というモチーフはどこからきているのでしょうか。

蒼星:いつもスケッチブックにキャラクターを描いているのですが、一番好きな犬を描き続けていたら、犬の耳の三角がきのこっぽく思えてきて。きのこ自体、生物的に変わっているところが気になって、展示会によく行っていたんです。色や模様がポップで可愛いし、なんで毒があるのかとか、いまだに生態がよくわかっていないらしく、隙間がたくさんあるから物語を広げやすいのかなと。描く時のルールは特になかったんですけど、ずっと地面の中にいたので、どっしりとした感じは意識していました。

——ピンク色の耳もファンタジーっぽいというか、ポップなイメージですね。

蒼星:リアルな話で言うと、当時連載されていた『月刊COMICリュウ』(徳間書店)には男性向けの漫画が多くて、可愛い色にしたら漫画好きの女性が反応してくれるかなと。私自身は暗めの色のほうが好きなんですけど。

●創作のベースはトーベ・ヤンソンの作品

——『きのこいぬ』で連載デビューされています。もともと絵を描くのは好きだったのでしょうか。

蒼星:物心ついた時から漫画家になりたいと思っていました。2005年くらいに別の出版社に投稿して賞をいただいたんですけど、あまりうまくいかなくて。その後、アシスタント先で「コミティア(自主出版された本の展示即売会)ならいろんな出版社さんに見てもらえるよ」と聞いて、持ち込みに行ったら『COMICリュウ』さんに出会いまして。まずは第一話を投稿し、それが連載に繋がりました。

——もともとはどんなお話を描かれていたんですか?

蒼星:コミティアで出していたのはまったく別の作品で、日常ファンタジー系でした。もともとトーベ・ヤンソンがすごく好きで、トーベさんが作る、真面目だけどおかしみのあるキャラクターや、無機質だけど温かみのある世界観にすごく憧れていて。それが創作のベースになっています。

——トーベ・ヤンソンというと、ムーミンとか?

蒼星:そうです。子どもの頃、朝に放送されていたアニメを見ていたのですが、造形は可愛らしいのに怖い世界観だなと思っていて。ギャップというか、普遍性のようなものを感じていました。『きのこいぬ』ってキャラクターだけ見るとポップだと思いますけど、読んでみたら意外と悲しかったっていう感想をいただくこともあって、影響は受けていると思います。

——たしかに、『きのこいぬ』では普遍的な人間ドラマも描かれているなと感じます。本作の世界観を作り上げていく時に苦労されたことはありますか?

蒼星:作品というより連載自体が初めてだったので、ありがたいことに、手探りしながら描き方を学んでいました。ムーミンじゃないですけど、『きのこいぬ』の世界なら変なやつがいてもいいよねっていう間口の広さを大事にして。

——ほたるの日常ではさまざまな出来事が起こりますね。ご自身の日常からヒントを得ることもあるのでしょうか。

蒼星:取材にも行きますし、“ネタにするぞ”って意気込む時もありますけど、それよりも、たまたま居合わせたり、偶然体験したり、日常の隙間で感じたことのほうが漫画に滲み出ていたような気がします。たとえば、誰かが話していた「今日は晴れているから○○だね」みたいな、その人の生活から自然と出てきた一言二言で、1話分くらいの話が膨らむこともありました。

——5巻では伊勢の“おかげ犬”から発想を得たという場面があって、夢オチのお話が新鮮でした。

蒼星:あの時は疲れていて、仕事のことを考えず、気分転換のために行った旅行先で“おかげ犬”のことを知って。帰りの新幹線で「やばい。ネーム書かなきゃ」と描いている時に、たまたま旅先で出会った“おかげ犬”みたいな格好をきのこいぬがしていたら面白いなと。取材ではなかったのに、たまたま繋がったんです。旅行に行かなかったら生まれていなかった場面だと思うと、わからないものだな…と。

●矢良の髪は「なくなるんだな~」と傍観

——特に気に入っているキャラクターを教えてください。

蒼星:描いていて面白いのは、やっぱりきのこいぬです。いつも紙にペンを置いてから動きを見ているような感じなので。矢良も何をするかわからないキャラクター。動きが読めないようなキャラクターが好きなんだと思います。ほたるは悲しい過去と向き合い続けていて、彼の心情や生活を考えるとつらくなってくるので、描いていて面白いなっていう方向には行かないんです。

——矢良は、割と早い段階で髪がバッサリと切られてしまって驚きました(笑)。

蒼星:矢良は好きだと言っていただくことが多いキャラクターですね。あの場面も、切ろうと決めてはいないんですけど、私がキャラクターの1コマ1コマの続きを見ている感じなので、“あ、なくなるんだな~”と思っているうちに、あっさりと。あのトサカは描きやすかったし、気に入っていたんですけどね。

——描くのが大変そうだと思っていたので、それは意外です。

蒼星:変な形をしているほうが描きやすいんです。いわゆる美男美女みたいな整っているキャラクターのほうが難しいなと。プラムもよく可愛いって言ってもらえるキャラクターです。吊り目の顔と恥ずかしがり屋の中身のギャップが可愛いとか。プラムは、きのこいぬの横に並べた時に少し違う感じで描いたら、割とすぐに造形ができあがりました。好物のおにぎりは、なんとなく似合いそうだし、ちっちゃい手でも食べやすそうだなと思って。

——きのこいぬとプラムは、「首がない」ことと「手足の短さ」がネタになっている場面もよく出てきましたね。

蒼星:こういう形が面白いなと思って描き始めたんですけど、いざ描き進めてみると、首がないし、手足は短いし、動かしにくくてびっくりしました。動きが限られていて、どうしてもどっしりしてしまうし、歩く時にドチドチしてしまう。だから「動ける範囲で丸っこくて食べやすいものは、おにぎり」とか、描きながら決まったところはありますね。他の漫画のキャラクターってだいたい、もうちょっと手足が長いし、首もあると思うんですけど…(笑)。

●狙っていないシュールな笑いが好き

——つばきやあんずの登場シーンもどんどん増えて、気づいたらみんながほたるの家に集まっているという。あの家族っぽい感じも、描きながらできあがったのでしょうか。

蒼星:そうですね。ほたるは失ったことの多い人生が前提にありつつも、間口の広さを持つ人なので、“好きで来てるならいいよ”という雰囲気で、自然と。彼は目の前で起きていることをずっと見続けているような感じなので、人生の波みたいなものを受け入れるしかなかったのかなと。

——6巻でほたるが過去を顧みるシーンでは、ほたるの心の中に変化が生まれたようでした。

蒼星:彼が体験した喪失感や悲しみって、向き合えるようになるまでに大きな時間と体力が必要だったと思うんですよ。だから、失ったものに対してずっと「さよなら」を言えないまま抱えていた。怒りもあっただろうし、疲れていただろうなと。それでも、きのこいぬたちと過ごすなかで、だんだんと体力をつけて、笑ったり呆れたりしながら心を回復させて。ようやく過去と向き合うことができたから、お墓参りでああいう言葉が出てきたのかなって思います。

——過去に踏ん切りをつけながら次のフィールドに進んでいくのだろうと可能性を感じさせるシーンでした。ほかに、ご自身で思い入れのある場面はありますか?

蒼星:どちらかというと、単行本に載っているおまけ漫画が楽しかったです。きのこいぬとプラムが太っちゃったりとか、ダイエットで運動しながらゼエゼエしたりとか。ちょっと遊びのある回が息抜きになっていました。

——きのこいぬもプラムも、ほっぺたがムチムチでしたね。

蒼星:もともとムチッとしているので、もっとムチッとさせないと、と思って(笑)。でも、太ったことを真っ向から指摘されるとショックを受けるっていう。

——番外編といえば、矢良のWeb版ショート漫画もありましたが、こちらも息抜きになっていたんでしょうか。

蒼星:あれはかえって、矢良の生態がよくわからなかったから難しかったです(笑)。変態的なところを出さないと、って思いながら描きました。

——矢良はストーカー呼ばわりされるほど変態っぽいのに、愛されキャラですよね。

蒼星:矢良のキャラクターは、きのこマニアの方たちがベースになっているんです。漫画にも描きましたけど、きのこの展示会で出会うようなきのこマニアの方たちはみんな面白くて。「きのこってそんなに日常で見つかりますかね」と聞いたら、「あなた、まだ“きのこ目”ができてないのね」って変なマウントを取られたり、ものすごい早口のいわゆるオタク喋りできのこの魅力をずっと語っていたりとか(笑)。

 きのこって抜くとすぐにしおれてくるので、展示会では時間ごとにきのこを持ってくる人がいて、「きのこ届きました!」って声がかかると大人たちがザワッとする。何かに熱中している人たちって面白いし、どこか愛らしいじゃないですか。それを突き詰めていくと変態性も出てくるし、マニアックだし。

——たしかに、きのこ研究所の一員でもある矢良はマニアックであり、ほたるに対して一途ですよね。キャラクター同士のギャグとか、笑いの要素が随所に登場するところも『きのこいぬ』の面白さだと感じます。

蒼星:ほたるが主人公である限り、悲しい回が必ず来るなと思っていたから、笑える場面も意識していました。ちょっとシュールな笑いが好きなので、無表情な感じの淡々とした面白さとか。きのこマニアの人たちにも通じるような、笑いを狙っていないのにちょっと笑える感じとか。

●読者の声で初めて気づいた「癒し系」

——ほたるはその後も、周りの人たちとの関係に変化があったりして、その変わりように驚くこともありました。

蒼星:私自身も『きのこいぬ』ではびっくりすることが多かったです。「もうちょっと引き延ばせるんじゃないか」と思うような場面もありましたけど、この人たちはもう進んでいくんだなって。私が描いているのに、私の考えの及ばない方向にばかりいくので。

——『きのこいぬ』らしさが溢れるラストシーンも、ぜひ読んでほしい場面だと感じています。

蒼星:ラストシーンは、15巻描いてきた中でも初めて「描き切った」と思えた場面。これからもきのこいぬはほたるのそばに居続けるんだろうな、という気持ちを意識しながら描きました。最後の1コマも、そんな想いから出てきた絵なんです。悲しすぎる時にちょっとズラしてしまうのが好きというか、はぐらかすのが癖なんですよね。ちょっとだけギャグにするとか。9巻のほたるとこまこの場面でも、プラムが恥ずかしすぎて焦げているんですけど、もう描いている自分が恥ずかしくて…。たぶん照れているからだと思います(笑)。

——そういった一面も『きのこいぬ』のエッセンスになっているのだと感じます! 連載開始から12年間、ずっと読み続けていた読者もいたのではないでしょうか。

蒼星:編集さんに聞いた話ですが、中学生の時に『きのこいぬ』を読み始めてから社会人になった方もいたようです。初めての連載であくせく描いていたので感慨深いですし、これでいいのかどうかわからないまま描いていたので、「癒されます」と読者さんから言われて初めて「癒し系なんだ」と気づいたりして、私自身も今になって作品を振り返っています。喜んでくれたみなさんの声を聞くと描いて良かったなって思えますね。

——漫画のラストシーンから約2年経ち、昨年10月からはTVアニメが放送されました。ご覧になっていかがでしたか?

蒼星:私が一番楽しんでいると思うくらい楽しんでいます。アフレコ現場を見学させていただいた時に、きのこいぬの鼻息みたいな声まで声優さんが当てていらしたのを見て「本当に犬だ!」と思いましたし、声が入っていくたびに「ほたるやこまこちゃんが本当にいる!」と思えたりして。連載が終わってから少し経っているのもありますが、まったく別作品のような気持ちで楽しんでいます。

——今後どこかで、きのこいぬの大阪編を見てみたい、と思うのですが…。

蒼星:私自身もそう思っていたんですけど、ほたるがなかなか外に出る機会がなく、タイミングを見ているうちに終わっちゃったなと(笑)。もし機会があったら、きのこいぬに本場のたこ焼きを食べさせてあげたいですね。

取材・文=吉田あき

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