変化を楽しむ/絶望ライン工 独身獄中記㊲

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公開日:2025/2/5

本稿がいつ掲載されるかは神のみぞ知る、というか担当編集松原のみぞ知るといったところであるが、本日は読んでくださる皆様に最悪のお知らせがある。
どうか覚悟の上読み進め、そして向き合って頂きたい。

もったいぶっても仕方ないので先にお伝えするが、この悪趣味な連載「独身獄中記」は当初予定されていた連載期間を派手にオーバーランし、もう1年続けることになってしまった。
書くのはまぁ楽しいから問題ないが、読者諸君の気持ちになると実に心が痛む。
まだまだ私の悪戯に付き合わされるのだから。
ところで漫画しかないダ・ヴィンチwebの総合ランキングで唯一活字の連載をランクインさせるなど、諸君らにおかれましてもなかなかの悪ふざけぶりであると感心する。

気の毒なのは角川社と担当編集であるが、この前などストレスで蕁麻疹が出る旨供述していた。
心配なので朝夕拘らず私の鬼電を日に2度から4度に増やそうか検討中である。
全快の暁には血のように真っ赤に染まった朱入り原稿をいつものように元気に投げ返してくれたまへ。

しかしながら悪いことばかりではなく、良いニュースもある。
それは長引く連載が会社の「期」を跨ぐことにより生じる様々な変化である。
角川社は従業員10人程度の町の小さな印刷所だと思っていたが、実際は想像より大きな組織らしい。
そのため異動や入れ替えといった組織改編が頻繁に起きるらしく、各編集部においても例外ではない。

本連載は近年過激化する言葉狩りや表現規制と戦うスタンスでここまで来た。
社内で常に矢面に立たされるのは松原某である。蕁麻疹で済んでいるのが奇跡だ。
もう1年続くと述べたが、保守的なスタンスの素晴らしい人格者が部署の舵取りを担う可能性を考慮しなくてはならない。
過去の連載で少々おふざけが過ぎている内容などありがたく修正される可能性があるし、幸運なことに読めなくなる回が出てくるかもしれない。
私の言葉は社会の倫理観の尊い犠牲になるのだ、願ったり叶ったりである。
それどころかこの「独身獄中記」なる表題に物言いが付き、変更せざるを得なくなる未来も容易に想像できるし、これからマイルドな内容しか書けなくなるやもしれぬ。
正義と世の平和のため検閲され弾圧される、素敵な未来が待っている!
以上が良いニュースです。

ネットの海を漂流するいち連載など風が吹けば飛ぶってわけ、我々の意思や干渉が及ばぬ「時間」に翻弄されるは致し方なし。
時間に干渉できるのは重力だけであると、何かの映画で見た気がする。
そして皆が笑顔になる最高の結末は社内上層部からの圧力による打ち切りエンドであるので、それを避けるためフレアを撒き散らし全力で回避行動を取る所存である。
つまり変化を恐れない事です。

独身獄中記はもはや私だけのものではない。
再来週からタイトルが「中年ゆるゆる日記♪」とかにされても、著者名が「絶望ヌイン工」になっていても、内容がよくある小洒落た日常エッセイになっておすすめのアップルティーとか紹介し始めても。
それは連載を最後まで続けることを選んだ我々の覚悟なのだと、皆様に思っていただけたら嬉しいし、そんな変化を楽しんでもらえたら私も松原も思わずニッコリなのである。

<第38回に続く>

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絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。