これぞ「ゼニと夢が支える芸能裏面史」! マドンナ、ボン・ジョヴィを「前座」時代に見いだし、日本に呼んだ男の「一代記」【書評】
更新日:2025/1/27

昨年、「OASIS再結成」の報が世界的ビッグニュースとなった。ほどなく日本公演も発表され、新旧のファンが熱狂。当然即ソールドアウトしたのだが、そのチケットの高騰ぶりには絶句した方もいただろう(東京ドームのSSが3万3000円、一番安いBでも1万2000円だ)。「円安にしたって高すぎない?」と思う金額だが、『呼び屋一代 マドンナ・スティングを招聘した男』(宮崎恭一/講談社)を読めば、いわゆる「海外アーティストの招聘現場」の博打っぷりを垣間見て、ちょっとだけ納得(?)するかもしれない。
本書は海外アーティストの来日公演をプロモートする「呼び屋」として、数々のビッグネームの来日公演を実現させてきた音楽・映画プロデューサーの宮崎恭一さんの半生記だ。コンサートに行ったことのある人ならば「キョードー東京」や「ウドー音楽事務所」といった社名を聞いたことがあるかもしれないが、多くのコンサートはこうした「イベンター」と呼ばれる企業が招聘からイベント運営までを手がけている。大物アーティストになればなるほどこうした大手イベンターによる仕切りが増えるが、そんな中で宮崎さんは80年代から「ほぼ独立系」(一時期、西武百貨店事業部長に就任)で、数々のビッグネームの公演を成功させてきたのだ。
宮崎さんは吉田拓郎やキャロル、サディスティック・ミカ・バンドなど多くの国内アーティストも手がけているが、海外アーティストを列挙するとそのスケールにびっくり。ボン・ジョヴィ、マドンナ、スティングといったロック系、クラシックやバレエ、さらにはK-POPアイドルまで大物揃いだ。
マドンナ/ボン・ジョヴィ/クイーン/クワイエット・ライオット/ボブ・ジェームス/スティング/オスカー・ピーターソン/ロリン・マゼールとフランス国立管弦楽団/ビリー・ジョエル/ローリング・ストーンズ/ホイットニー・ヒューストン/サイモン&ガーファンクル/トロカデロ・デ・モンテカルロ/グランディーバ/JYJ/カウフマン/グリゴーロ/フローレス
これらの公演をなぜ宮崎さんが手がけられたかといえば、むしろ「独立系」だからこそ。会社の看板ではなく「宮崎」という個人でアーティストや関係者とわたりあい、即断即決できたからだ。「このアーティストはウケる!」と直感したら(それはしばしば音楽好きの奥様の目利きに支えられていた)、即契約。たとえばマドンナもボン・ジョヴィもまだニュージャージーの音楽フェスで「前座」をつとめている状況で発見し、そのまま日本での初公演を手がけるファーストオプション契約を締結。即金で手付けまで払えるのも、個人で裁量できるからこそのフレキシビリティだろう。
ただし、ひとたび「契約」したといっても安心ではないところが興業のこわいところ。チケットが売れるほどの人気が獲得されてから実際にライブが開催できるわけで、逆にそのくらい売れるようになれば大手も黙っていない。さらにはアーティスト自身の気まぐれが大きく左右し、最悪の場合は土壇場キャンセルも…(実際、スティングはオフで風邪をひき公演を一部キャンセルしたとか)。最終的には多くが「カネ」の話に帰着するが、なにしろ動く単位が巨額で(○十万ドル単位~。当時のレートで考えると1500万〜2000万円が動く感覚か)、それがバンバン決裁されていく勢いもすごい。
ある意味まさに「ゼニと夢が支える芸能裏面史」。配信時代に入って音楽業界の構造は様変わりしたとはいえ、やはり興業をするのも支えるのも「生身の人間」であることに変わりはないし、今もこんな世界が裏で繰り広げられているのかも。
文=荒井理恵