野田サトル 『ゴールデンカムイ』最終回は半年前から決まっていた。初期プロットや単行本加筆を生んだ“編集者との語らい”【野田サトル×担当編集 大熊八甲インタビュー 前編】
更新日:2025/3/4
『ゴールデンカムイ』最終回は半年前から決まっていた
――『ゴールデンカムイ』がヒットしたことで『スピナマラダ!』の終了直後にあった焦りはなくなっていったのでしょうか?
野田:そうですね。ただ今度は、作品への責任というか「絶対にうまく着地させなければいけない」というプレッシャーが生まれてきてしまって。
大熊:当時、野田さんが「最後でコケたくない」とよく仰っていました。連載途中で盛り上がっても、オチの付け方で評価が反転してしまうことが平気で起きる世界だとわかっていらしたので。
――『ゴールデンカムイ』の終盤は本当に素晴らしかったです。
野田:実は、半年前から『ゴールデンカムイ』最終回が「ヤングジャンプ」の表紙になることは決定していたんです。これ言って大丈夫ですかね?
大熊:大丈夫です(笑)。
野田:週刊連載で半年後に何を書くのかなんて到底決められるものではないのです。半年と言ったら単行本2巻分くらいですよ。函館あたりから「あと何話で終わり」って決められた状態で、逆算してストーリーを割っていったんです。遥か遠くの着地点を見つめながらムーンサルトで飛んでるような気分というか。
大熊:週刊連載という締切やページ数など制約が多いなかで、少しでもおもしろいものを生み出そうという良い意味で反発力が生まれるものです。結果的に野田さんには大変もがき苦しんでいただいてしまいました。本当にありがとうございました。
野田:そういう制約の中でやるのがプロだと思っているので、雑誌の連載のあり方は全く否定しません。でもどうしてもアクションやコマのつなぎが雑だったりしていたので、単行本ではきれいにつながるように加筆させてもらいました。
――最終回の大幅な加筆も大きな話題になりました。
大熊:最終回だけでなく単行本化の際は加筆を行っているんですよ。野田さんは毎巻「何ページ増やせますか?」と必ず聞かれるんです。そんなに自分からページを増やしたがる作家さんってなかなかいないのですが。
――正直、それで大きく売り上げが変わるということもなく、単純に仕事が増えてしまうわけですが。それでも加筆すると。
野田:そうですね。ファンサービスとも少し違いますし、完璧に近い作品をこの世に残すためというか。休載をもらい、その1週間で加筆をして休みを使い果たし、次の連載の話を書き始めるというサイクルを連載終了まで繰り返していました。
凄まじい才能の伴走者としての“編集者”
――『ゴールデンカムイ』のヒットを受けて、大熊さんは編集者としてどのような感覚で仕事をしていたのか教えてください。
大熊:本当におもしろいものを毎回描いていただけるので、ある意味、編集者としては非常に楽なんです。だからこそ、野田サトルという凄まじい才能の伴走者としてどうあるべきか。そんなことをずっと考えていました。
――野田さんの過去のインタビューで「『ゴールデンカムイ』は大熊さんが手がけたメディアミックス、コラボ、終盤の全巻無料といった取り組みが全部ハマった」と話されていました。
野田:はい、もう大熊さんにすべて任せておけばいいという感じでした。そのおかげで、世間で作品についての話題が盛り上がって、僕は最後まで漫画に集中できたと思っています。
――『ゴールデンカムイ』が完結して、野田さんへの接し方に変化はあったのでしょうか。
大熊:以前の私は「漫画原理主義」というか、とにかく漫画をがんばって描いていただくのが野田さんにとって良いことを連れてきてくれると思っていました。だけど、それは視野が狭かったかなと思っていて。今は、もっと人生そのものを楽しんでいただきたいと思っています。
――人生を楽しむというのは、具体的にはどういったことですか?
大熊:プライベートもそうですし、『ゴールデンカムイ』でいえばアニメのアフレコや舞台、イベント、実写の撮影現場立会いに行くとか。なかなか体験できない貴重な機会なので。
野田:連載が終わるまで、アニメのアフレコにも行ったことがなかったんですよ。それまでは「漫画以外のことはすべて諦める」ぐらいの感覚だったので。それが今は変わってきたような気がします。
大熊:担当編集としてどうしても締切などはお伝えしなければいけないのですが、なにより大切なのは野田さんご自身なので、連載ペースも含めて相談しながらやっていきたいと思っています。
野田:『ドッグスレッド』の隔週連載を許していただいたのはありがたかったです。もう今は両腕がボロボロになってしまって…。
大熊:許す許さないではなく、当たり前のことだと思っています。物理的に無理なものは無理ですから。本当にいつでも相談していただきたいと思っています。
取材・文=金沢俊吾
<第2回に続く>