野田サトル『ドッグスレッド』は人生でやり残したことにけりを付ける。デビュー作打ち切り~『ゴールデンカムイ』で強めた“編集者との絆”【野田サトル×担当編集 大熊八甲インタビュー 後編】
更新日:2025/3/4

「週刊ヤングジャンプ」で『ドッグスレッド』を連載中の漫画家・野田サトルさん。本作は連載デビュー作『スピナマラダ!』が不本意な形での連載終了となったため、「完全版」を作るべくキャラクター設定やストーリー展開の多くを引き継いだリブート作だ。
本作誕生の裏には「人生でやり残したことに、けりを付けたい」という野田さんの情熱と、その想いを支える担当編集・大熊八甲さんの存在があった。
作家と編集者の関係に迫るダ・ヴィンチWebの新連載「編集者と私」第1回。前半は、新人漫画家時代の出会いから『ゴールデンカムイ』までを聞いた。後半は最新作『ドッグスレッド』、そして野田さんが「大熊さんに出会えていなければ全く違う人生を歩んでいた」という、お互いの存在意義について語っていただいた。
人生でやり残したことに、けりを付けたい
――野田さんは「『ゴールデンカムイ』がヒットしたら『スピナマラダ!』の完全版を描きたい」とずっと仰っていたそうですね。
野田サトルさん(以下、野田):どうしてもアイスホッケーを描きたかったというわけでもないんですよね。『ゴールデンカムイ』は僕のすべてを捧げましたし。自分の人生で描ける最高の作品だと今でも思っています。次に何を描こうか考えたときに、人生でやり残したことにけりを付けたいと思ったんです。「いま一番描きたいものなのか?」と聞かれたら違うのかもしれない。
――『スピナマラダ!』でやり切れなかったことがあると。
野田:そうですね。打ち切りになって、時間やお金をかけて取材したことが無駄になってしまったという感覚がありました。今だったらもっとうまく描ける、とも思いましたし。
――過去のインタビューで「他にも描きたい題材は沢山あった」とも語られていましたが、このタイミングで『ドッグスレッド』をスタートさせた理由はなんでしょうか?
野田:まだ元気で、センスが枯れていないうちに描きたかったんです。60代で『ドッグスレッド』をおもしろく描けている自信はないですね。そもそも、いつまで漫画家をやっていられるかわからない。
あとはコロナ禍や東日本大震災、能登半島地震を経て、人生というものを考えるようになったんです。一度きりの人生、転んでも転んでも諦めずに立ち上がって、狂った犬のように走らなきゃいけない。青臭いと言われても「なにをやっても変わらない」という諦めをぶっ壊したいんだ、と。
一度転んだ作品をもう一度再生させてるわけですから、この作品の存在自体が、メッセージでもありますよね。打ち切りになった作品を本誌でやり直すってのだけでも漫画業界では聞いたことないですし。

――大熊さんは、野田さんの意志をどう受け止めましたか?
大熊:やっぱり、なにより格好いいなと思いました。僕も担当編集として『スピナマラダ!』でやり切れなかった部分もありましたし、今の野田さんが描いたらどんな物語になるのか、とにかく楽しみでした。
――リブートにあたり、大熊さんが「前作から加点が必要」と仰ったそうですね。主な加点のポイントを教えてください。
大熊:一番大きな点では、キャラクターの「点」と「線」の魅力をしっかり描くことでしょうか。『スピナマラダ!』の読者さんは試合の勝敗などの展開を知っているので、キャラクターに会いにきてもらえるような作品にしないといけないと思いました。
「点」というのはキャラクターのバックグラウンドや「オフの日何しているのか」みたいな解像度が上がる側面を見せること。「線」はキャラ同士の関係性を描くことだと思っています。
――関係性でいうと、センターとウイングのコンビを「夫婦や恋人以上の関係」と紹介しています。ポジションで人間関係の理解が深められるのはスポーツ漫画ならではだと思いました。
野田:それは本当にその通りですね。密室の団体競技で、男だらけで汗水垂らしてひとつのことをやっていれば、絶対に人間関係のドラマは起こるので。
