野田サトル『ドッグスレッド』は人生でやり残したことにけりを付ける。デビュー作打ち切り~『ゴールデンカムイ』で強めた“編集者との絆”【野田サトル×担当編集 大熊八甲インタビュー 後編】
更新日:2025/3/4
スポーツ漫画における「進級」の難しさ
――キャラクターの「点」の深掘りとして、源間慶一が「王子製紙で働いて結婚して(中略)ジジイになってあの煙突を見ながら死ぬ」と言うシーンは、地方出身者のリアリティがあってとても印象的なシーンでした。
野田:日本アイスホッケー界の世界観というか、当時の実業団選手が理想とした選手人生を語るシーンとして描いたんです。

――北海道に骨をうずめる覚悟の源間慶一に対して、主人公の白川朗は「オリンピック出場」を目標としています。高校生編以降の構想もあるのでしょうか?
野田:何十巻にもなるような長い作品にはしない予定です。『スピナマラダ!』で飛ばしてしまった試合は、もちろん描くつもりなんですが、その間のキャラクターたちの魅力や関係性、何気ない日々をしっかり描くつもりでいます。
――『スピナマラダ!』の先を描く、という感覚ではないということですね。
野田:そうですね。スポーツ漫画において「進級」というイベントを乗り越えるのは、かなり難しいと思っているんです。3年生が魅力的過ぎるのでどうしてもパワーダウンした印象を与えてしまうなと。少なくとも僕はおもしろくできる自信があまりないんです。
――現在、4巻まで発売されていますが、人生にけりを付けられそうでしょうか?
野田:うーん、どうでしょうか(笑)。『スピナマラダ!』のほうは若い勢いがありましたけど、それしかない。完成度は『ドッグスレッド』の方が遥かに高いです。前作の方が面白いという意見があるなら、それは素直に嬉しいです。でも『ドッグスレッド』はどんどんおもしろくなっていく構想は持っているので楽しみにしていて欲しいという感じです。
大熊:野田さんは「おもしろさの指標」が揺るぎなくご自身の中にあるんですよ。それは絶対的な指標なんです。僕ら編集者はマーケティングもやっているから相対的に揺らぐことはあるのですが、野田さんは全く揺らがないので本当にすごいと思っています。
キャラクターは野田サトルのかけらたち
――大熊さんは『スピナマラダ!』『ゴールデンカムイ』『ドッグスレッド』に共通する野田作品の魅力はどんなところにあると思いますか?
大熊:魅力はメチャクチャたくさんあるので乱暴に絞ってしまいますと…野田さんの人間性、真摯さや誠実さが漫画ににじみ出ているところでしょうか。
キャラクターたちはみんなフェアで真摯な精神性を持っていますよね。野田さんが命を削って漫画を描いている姿とキャラクターが重なるというか。
――敵味方はありますが、それぞれの信念に基づいて生き様を貫いたキャラクターたちだと思います。
大熊:そうなんです。単純な悪はいませんし、みんなそれぞれ格好いいんですよね。
――野田さんは、作品に人間性がにじみ出る、という実感はありますか?
野田:そうですね、漫画って嘘はつけないなと思います。作家の倫理観とか性格とか出ますよね。セリフや演出はもちろん、キャラの仕草から作者の無意識な強さ弱さが出ます。だから漫画は面白いですね。
――魅力的なキャラクターを数多く生み出す理由は、あえて言語化するとしたらどんなことでしょうか?
野田:アンテナ、でしょうか。一例を挙げますと昔、僕が若い時、年上のおじさんたちと飲みに行って、店員さんがかなりお年を召した女性だったのですが、おじさんが「お姉さん」と呼ぶんですよ。「あ、なんだかいいな」って思ったんですよね。そういうのを記憶しておいて、キャラクターの女性への接し方に生かしたりとか。
大熊:取材でなくても日常的にアンテナを張って、それを作品にちゃんと反映しているんですよね。『ゴールデンカムイ』『ドッグスレッド』のキャラたちはみんな、野田さんのかけらたちなんです。
