野田サトル『ドッグスレッド』は人生でやり残したことにけりを付ける。デビュー作打ち切り~『ゴールデンカムイ』で強めた“編集者との絆”【野田サトル×担当編集 大熊八甲インタビュー 後編】
更新日:2025/3/4
編集者として「言葉を持った読者」になる
――そろそろインタビューも終盤なのですが、野田さんにとって大熊さんはどんな存在なのか、改めてお聞かせいただけますか。
野田:僕に足りないものをしっかり持っていて、補うだけでなく、より高みへ引っ張り上げてくれる存在です。例えば、僕が自信満々に書いたネームを送るんですけど、たまに全否定されるわけです。
大熊:いやいや…全否定はしていないです(笑)。野田さんのネームは、本当に全部おもしろいんですよ。ただ、時々ちょっと気になる箇所があったら、それを必死に捉えて言語化するのが僕の仕事だと思っています。
野田:そうして、いろいろと助言をいただきできあがった原稿は、ネームの時よりはるかに良いものだったりするわけです。自分ひとりの力でおもしろいものは描けないというか、大熊さん無しで同人誌とかでぼそぼそ描いて暮らしていくことも出来るでしょうが大熊さん無しでは、質の高いものは残せないだろうなと確信しています。
――具体的にはどのような指摘があるのでしょうか?
野田:整理整頓の仕方を教えてくれるんです。僕はグチャグチャって1話に描きたいことを詰め込むんですが、大熊さんは「ここをもう少し強調してあげたらいいですよね」とか都度都度、指摘してくださっています。
大熊:僕は凡庸なアイデアしか持たないのですが、それを言語化して伝えることで、野田さんがあえて切り捨てているであろう部分を再考してもらえればいいなと思っています。僕はあくまでリトマス試験紙、言葉を持った読者としてリアクションを返しているというだけなんです。
――過去に「大熊さんは漫画作品を例に出して説明してくれる」と仰っていました。
野田:大熊さんは世間で大ヒットした作品は必ずチェックして、売れた理由を分析されています。そのうえで具体的に自分の引き出しから話の展開などの成功例、失敗例を出してくださるので、本当にありがたいと思っています。
大熊:……ありがとうございます。もっと勉強します。
野田:(笑)
大熊:ただ、世間で流行っているシューズを作るのではなくて、野田さんの足に合うシューズを作るという気持ちを一番大切にしています。作家さんの適性を見ないで言っても、それはただ売れているマーケットの法則を言っているだけなので。野田さんメイドのデータをいっぱい集めるということをやるべきなのかなと。
「大熊さんが担当を外れたら、引退してもいいかな」
――野田さんにも同じ質問をさせてください。大熊さんはどんな存在ですか?
野田:いやもう本当に、出会えていなければ全く違う人生を歩んでいたであろうと思っています。大熊さんが担当を外れたら、引退してもいいかなっていうつもりでいますね。大熊さん無しでつまらないものを描いて晩節を汚すくらいなら、すっぱりと違う人生を送ったほうがいい。
大熊:いやもう…本当に、今日は卒業式かな(涙)。
野田:大熊さんも「ヤングジャンプ」の副編集長になられて、本来は現場をやるような人ではないんです。二人で作れる作品も残り少ないかもなと考えると、今の時間がとても愛おしいですね。
――すごい、とても素敵な関係だと思います。
大熊:野田さんはとても優しいんですよ。とある表彰式で弊社の幹部たちに会ったとき「大熊さんはすごいです! 大熊さんをよろしくお願いします!」とアピールしてくださって。その結果、みんなは、戸惑っていましたが(笑)。
野田:サラリーマン経験がないんでわからないのですが、そういうの大事かなって(笑)。他にできることもないので。
――今後、大熊さんが担当でなくなったとしても、良い関係は続いていくんだろうなと思いました。
野田:どんなに出世したとしても、ネームは見てもらいたいですね。
大熊:ああ…最高の言葉ですそれは。そうさせていただけるように、僕は磨き続けなければいけないなと思いました。読者代表であり、いいリトマス試験紙でいたいです。
取材・文=金沢俊吾
<第3回に続く>