『誰が勇者を殺したか』著者の初期作品 !激マズなモンスター肉を食べて強くなれ、生き残るために『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』【書評】
PR 公開日:2025/1/29

食とはパワー。よく食べて鍛えてこそ、より強くなる。名だたるアスリートや格闘家が説く道理は、剣と魔法の世界でも変わらない。ただし! 食べるものが凶悪な魔物を狩って得たゲテモノ肉しか許されず、命にかかわる劇物とくれば厄介にもほどがある。
2024年1月から「ヤングアニマルZERO」と「ヤングアニマルWeb」で連載中 のマンガ『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』(駄犬 :原作、鈴羅木かりん:漫画、芝:キャラクター原案/白泉社) は、そんな“モンスター肉食”でパワーアップしてトントン拍子に成り上がる主人公を描いた愉快痛快なファンタジーだ。
本作は同名小説をもとにしたコミカライズで、原作者「駄犬」氏 はデビュー前から5本ものWeb小説が書籍化決定していた超新鋭。 そんな作家の原作を、ベテランの鈴羅木かりん氏が作画を担当してクオリティは折り紙付きになっている。
舞台は、平和が続いた反動で政治が腐敗した小国家。主人公の王子・マルスは腹黒い宰相に命を狙われており、毒殺を恐れて城の中で出された食事にはおちおち口をつけられないでいた。そこで命をつなぐため、城の外へ出かけてはモンスターを狩って、その肉を食べているのだ。

そんなマルスに目を付けたのが、剣聖・ カサンドラ。彼女は強いモンスターを食うと強くなれる法則をつかんでおり、マルスを弟子として無理やり鍛えていく。自分の耐性を越えた魔物を食えば命を落とすリスクで涙目のマルスだが、結果的に暗殺者を自力で撃退できるほどの猛者へ成長する。めでたしめでたし……とは、問屋が卸さない。ここからが本番だ。

マルスの強さは、それに惹き付けられる人々を生み出した。平和な国では軽んじられる武の力を追求する脳筋集団・ハンドレッドだ。モンスター食い修行を教えるとメキメキ強くなった彼らは勝手にマルスを指導者として崇めたてまつり、その中には腐敗した国を嘆く騎士なんかも混じっていたものだからさぁ大変。マルスはあれよあれよと旗頭に担ぎ出され、王座を奪い取るための戦いが勝手に盛り上がっていく……本人にはその気もないのに! 反乱? 何それ美味しいの!?
という具合に、題名の「王位に就いた件」まで一直線に、何もかも周りの勘違いで加速するコメディ展開が見どころだ。

少年マンガ等でおなじみの“大食らいのヒーロー”を逆手にとった、“食べたくもないものを食べまくらないといけない、ヒーローになる気はなかった主人公”という位置づけ。また、美食しながらほのぼのと旅するグルメ系ファンタジーの逆で“死ぬほどマズい魔物の肉を食って殺伐と戦いまくる”という趣向。定番とも言えるネタの楽しいヒネり方に、原作の時点からの高い地力が感じられる。駄犬氏が編集者としての経験 があることから、構成力とキャラクター造形に優れている賜物ではないだろうか。
そんな本作でイチオシのキャラクターが、マルスの婚約者・フラウ嬢。クールな物腰と裏腹に面白いことが好きで、おかしな状況に駆り立てられるマルスをそばで眺めるため反乱勢力に加わるクセモノなヒロインだ。強烈な魔法を実の親にも平気でぶっ放すヤバ可愛い魅力は、絵に描き起こされたコミカライズの大きな恩恵と言える。

かくして、良い小説を良いマンガに仕立てた理想的なコミカライズとして、『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』をぜひご覧あれ。
文=宮本直毅