「もうあなた達の家政婦やめます!」育児を丸投げする夫、義父の介護を押し付ける義母。宝くじで10億円を手に入れた主婦は、幸せになれるのか?【書評】
PR 公開日:2025/2/8

ある日突然大金を手に入れたら……そう妄想したことは誰にでもあるはず。では実際に大金を得たら本当に幸せになれるのか? そんなテーマを主婦の視点からリアルに描いたのが『10億円で夫、捨てます。』(ままかり/主婦の友社)です。
主人公・桜は専業主婦。まだまだ手のかかるふたりの子どもと家のことは丸投げの夫、介護が必要な義父と口を開けば嫌味ばかりの義母の6人と同居中。家族の世話でてんてこまいの毎日を過ごしています。


見かねた離婚済みの友人から「誰かの面倒見て一生終わっちゃうよ?」と言われ少し焦る桜。学生時代の“自宅の一角でカフェをやる”という夢を思い出しますが、夫の収入では別居すら夢のまた夢。専業主婦になったことを後悔しつつも不幸ではないよな……なんて思っていたら、宝くじで10億円が当たったことが判明します。


冒頭でも触れた“もし大金を手に入れたら”という妄想のほとんどは欲しいものを買ったり、してみたかった体験をしてみたり、幸せな未来を思い描くものだと思います。しかし10億円を受け取りに行くと、担当者に「いきなり大金を手にした結果破滅した方を何人も見ました」と言われる桜。その言葉通りこれまで桜の忍耐によって成り立っていた家族は、10億円をきっかけに崩壊していくのです。


では桜は宝くじが当選しない方が幸せだったのか? そうとも言い切れないのがこの作品の面白さ、そして共感を集めるポイントです。確かに遺産相続などお金のあるところには揉め事が増えるのもまた現実。しかしお金がある人全員が不幸になるわけではありません。桜も現状がお金のせいで生まれたものではなく、もともとあった問題がお金というきっかけで表面化したに過ぎないと気づきます。


10億を手に入れなければ専業主婦である桜に現状を打開するすべはなく、義両親と夫に憤りつつも家族がいる幸せを感じながら暮らしていたでしょう。それが大金を手にした桜より幸せなのか不幸なのか。その答えは桜にもわかりません。桜ほどではなくても日夜主婦として家族のために自分の時間を費やしている人にとってこの問いは、そして桜の想いは自分事と感じるはずです。
しかし桜は大金で自分の人生の選択権を得たというのも紛れもない事実。カフェ開店の夢への第一歩として知人のカフェでアルバイトを始めたり、行動を起こします。そして荒んだ生活をしていた夫も家事を引き受けることを決意。そうして外で働く、家を守るというお互いの立場を実際にやってみることになったふたり。最後にふたりがどんな決断を下すのか……。ふたりが出した答えは本書でお確かめください。
自分の人生を、そしてパートナーの存在を改めて考え直すきっかけをくれる1冊です。
文=原智香