母子揃って異世界召喚!?魔王軍の幹部となり息子を取り戻す母の戦いを描いた異色の異世界ファンタジー【書評】
公開日:2025/3/13

非日常への憧れや自由に生きる夢を投影できる異世界召喚ものは、多くの漫画ファンに支持されるジャンルのひとつだ。突然異世界に放り込まれた主人公が新たな環境で果敢に生き抜く姿は、読者に特別なスリルと没入感を与えてくれる。
『勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。』(野山歩:原作、ツヅル:漫画/徳間書店)は、異世界召喚により運命を狂わされた母子が織り成す壮大な物語だ。
主人公・美穂は、一人息子の蓮を手塩にかけて育てるシングルマザー。夫亡き後、彼女の願いはただひとつ、息子の幸せだけだった。だが、二人で楽しんでいたキャンプの最中、穏やかな日常は突如として崩れ去る。思いがけず、母子揃って異世界に召喚されてしまうのだ。
気がついたとき、美穂と蓮は見知らぬ異世界人たちに囲まれていた。そこで蓮は「勇者」として扱われ、復活した魔王との戦いを強要されることに。愛する息子を戦場に立たせることに猛反対した美穂。その結果、異世界の人々に疎まれ、魔物の巣窟に置き去りにされてしまうのだった。
異世界召喚ものといえば、主人公が異世界に召喚されて勇者や冒険者となり、戦いや成長を経て世界を救うというのが定番の流れだ。しかし、本作ではさらに大きなテーマとして”母の無償の愛”が描かれる。異世界であろうと現実であろうと、わが子を想う母の愛は普遍的なもの。最愛の息子を生きたまま取り戻すため、魔王軍の幹部になることを決めた美穂。自分の命さえ惜しまず、どんな代償を払ってでも息子を守ろうとする彼女の在り方は、現実世界でのそれと何ら変わらない。
理屈ではなく本能に根ざした母の愛は、時に常識を超え、奇跡をも起こす。異世界という非日常的な舞台において、美穂の選択ははたしてどのような未来をもたらすのだろうか。数奇な運命に翻弄される母子の行く末を、どうか見届けてほしい。ストーリーのみならず、親子の絆や登場人物の成長、心の動きにも注目して読んでもらいたい作品だ。