転生先で命を救ってくれた“ふたりの母親”に恩返ししたい! 最強の母からの教え×チート能力で、心優しい少年が異世界を救う【書評】
PR 公開日:2025/2/28

子どもの頃は、両親の喜ぶ顔がみたくて勉強を頑張ったり、お手伝いをしたり一生懸命だった。しかし大人になると、いつの間にか両親や実家から遠のいて、たまの連絡しかとらなくなってしまう。頭の隅ではいつか親孝行をしようと思いながらも先延ばしにしているうちに、突然の不幸に見舞われて機会を失ってしまう。ことわざに「孝行のしたい時分に親はなし」とあるように、親への感謝を伝えようと思っても手遅れになってしまった人も多い。
『山奥育ちの俺のゆるり異世界生活~もふもふと最強たちに可愛がられて、二度目の人生満喫中~』(日暮:作画、蛙田アメコ:原作、ox:キャラクター原案/スターツ出版)は、子どもの姿で異世界に転生した主人公が、自分を拾ったふたりの母親に親孝行するために奮闘する異世界転生ファンタジー。原作小説は発売直後に重版がかかる大ヒットで、2月28日には3巻が発売したばかり。本稿では小説3巻と同日発売されたコミカライズ第1巻を紹介したい。
早くに母を亡くし長男として家族を支えた平凡な会社員・神崎勇樹(ユウキ)は、暴走したトラックから女性をかばって亡くなってしまう。神様から生前の善行を認められたユウキは、別の世界に転生して人生をやり直す機会を与えられる。子どもの姿で異世界に放り出されてしまったユウキは、女狩人のルーシーと精霊オリンピアに拾われ、ふたりを母親として山奥の一軒家で暮らしはじめる。


目の前で困っている人を見捨てられないお人好しなユウキ、強くて頼れる父親のようなルーシーと、いつも明るく微笑みを絶やさないオリンピアの仲睦まじい一家団欒の光景が微笑ましい。
ユウキの転生した異世界は、かつて勇者に倒された魔王が死に際に放った瘴気に覆われている。瘴気は魔物や魔獣を凶暴化させ、周囲のものを魔物化させてしまう恐ろしいものだ。精霊オリンピアの清浄な結界内で暮らすユウキだったが、結界を一歩出れば魔獣たちが襲ってくる。オリンピアが治めていた聖峰アトスも、かつては自然が豊かで動物たちが穏やかに暮らす森だったが、瘴気に侵されて魔物が跳梁跋扈する魔の山となってしまっていた。
命を救ってもらい、見ず知らずの自分を息子として温かく受け入れてくれたふたりの母親に「いつか恩返しをしたい」と願っていたユウキは、ふたりの母親のため、山をかつての美しい姿に戻そうと瘴気を払う方法を求めて山を下りて冒険へと旅立つ。


見た目は幼児のユウキだが、神様から与えられた「丈夫な身体」でどんな過酷な環境もへっちゃら、最強の母親ふたりに育てられ、最強の魔獣フェンリルを手懐け、さらに前世で積み上げた徳ポイントでチート能力が目覚めていく。かわいらしい姿とは裏腹に規格外の強さで無双していくギャップが面白い。


されどやはり彼の魅力は強さよりも優しさ。山を離れ、街へ出ても変わらない彼の優しさが人々を救い、やがて世界を変えていくことになる――。他人から受けた恩を、別の誰かに返す。そうやって繋がっていく優しい人間関係に心が洗われる。ユウキをみていると自分も誰かに優しくしよう、親に感謝を伝えたいと素直に思わせてくれる。
もふもふたちに愛され、最強の母に鍛えられ、チート能力で異世界を救う! 異世界転生×親孝行×無双という魅力的な要素が詰まった本作。家族の絆に心温まりつつ、痛快な冒険譚を楽しみたい方におすすめだ。
文=愛咲優詩