あの頃に戻りたい… 切なくエモい恋愛の記憶を詰め込んだオムニバスストーリー『この夜につなぎとめられるだけの愛を込めて』【書評】

マンガ

公開日:2025/3/2

「恋は盲目」とはまさに言い得て妙。恋に夢中になると、相手の欠点や短所すら見えなくなる——そんな経験に覚えがある人も多いだろう。たとえどれだけのリスクを負うことになろうと、人は誰かを思い、心を通わせたいと願う心を止めることはできない――。

この夜につなぎとめられるだけの愛を込めて』(あめみくろ/KADOKAWA)は、そんな切ない恋愛模様の数々をキュートなタッチで描いた極上の恋愛オムニバスストーリーだ。SNSで大反響を呼んだ短編全16話に加え、描き下ろし『大好きだった男の子の話』が追加収録されている。

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 本書に登場する女の子たちは、一人ひとりが複雑な恋愛事情を抱えている。身体の関係しか求められていないと知りながら、それでも相手に惹かれる自分を止められない女の子。「好きになるな」と直接言われたのに、もう手遅れだと自覚している女の子。とうに終わった恋だとわかっていながら、幸せだった時間を思い出しては涙を流す女の子。それぞれ事情は異なるものの、心に抱えた昇華しきれない感情は共通している。

 恋愛は人生を華やかに彩る一方で、必ず苦しみや痛みを伴う。初めから茨の道と知りつつも、その思いを諦められないのが恋の本質だ。諦められない思いは胸に深く刻まれ、日々の暮らしの中で何度も何度も容赦なくよみがえる。

 本作に収録されたエピソードは、決して幸せな恋や理想的な結末ばかりではない。むしろ、モヤっとした余韻が残る話も多い。それでも読後には、心がふわりと軽くなるような優しい感覚が残る。不思議な癒しを感じる一冊だ。それはきっと、実らない思いを抱える人のやるせない心に全力で寄り添おうとする著者の強い意思が、作品の根底にあるためなのではないだろうか。

 男女問わず、失恋経験を長く引きずっている人や、惚れてはいけないとわかっている相手に入れ込んだ経験のある人にはぜひ読んでみてほしい。「こういう人いるよね~」「あるある~」という共感も伴って感情移入しながら読めること間違いなしだ。

文=ネゴト / 糸野旬

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