「認知症の母の介護でつらい時期、救ってくれたのは『悪役令嬢』でした」――おじさん×悪役令嬢で話題のアニメ『悪役令嬢転生おじさん』。原作者・上山道郎インタビュー

マンガ

更新日:2025/2/20

(C)上山道郎/少年画報社

 2025年1月からスタートし、すでに話題沸騰中のアニメ『悪役令嬢転生おじさん』。原作は「次にくるマンガ大賞2020」コミックス部門第4位にもなった大人気漫画だ。異世界に転生したら悪役令嬢だった…という、いわゆる「悪役令嬢もの」だが、転生者はなんと52歳の公務員の「おじさん」!

 かくして悪役令嬢・グレイスに転生したおじさん・屯田林憲三郎だが、娘をもつ親目線の発言や真面目な公務員ならではの知恵を発揮して、悪役ムーブどころか仲間からの信頼感は増すばかりで…。

 原作『悪役令嬢転生おじさん』(少年画報社)はすでに7巻まで発売中。原作者の上山道郎さんに、お話を聞いた。

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原作者も興奮!? 『悪役令嬢転生おじさん』アニメ化。アニメの方が原作よりも「原作通り」

――『悪役令嬢転生おじさん』のアニメ、素晴らしい出来ですね。

上山道郎さん(以下、上山) それはもう完全に亜細亜堂の、アニメを実際に作っていらっしゃるみなさんの功績です。一応、脚本会議からしっかり関わらせていただいて、キャラクターデザインの監修やメインキャストのオーディションにも意見を出させてはもらっていますけど、ほとんど上がってきたものに対して「ああ、いいですねえ~」って喜んでいるだけですから(笑)。逆に漫画の方では曖昧だった美術設定とか、アニメで作った資料から漫画にフィードバックがあったりして、ある意味では、こちらがアニメから学ばせてもらっています。

 キャラクターにしても、アニメのキャラクターデザインを任されるレベルの人っていうのは、明確に僕より絵がうまいので、逆にいただいてから、僕がアニメのキャラ表にちょっと寄せて描いていたりするぐらいです。もう何の文句もないです。本当に原作を丁寧に読み込んで、読み解いて、再構成して、「アニメにするならこういう感じですよ」っていうことを一流のみなさんがやってくださっています。

――2話の冒頭に置かれた憲三郎の転生前の日常であるとか、その後のビーストの卵のくだりであるとか、随所にアニメオリジナルの要素も入っていますが、ああいう部分はどうやって盛り込まれているのでしょう?

(C)上山道郎・少年画報社/悪役令嬢転生おじさん製作委員会・MBS

上山 基本的には脚本の入江信吾さんが初稿でアイデアを出してくれたところに、こちらから肉付けをしていく形です。ただ、ビーストの卵の授与式のところもそうなのですが、連載がいつまで続けられるかわかっていなかったり、ページの都合だったりで、原作では描写を削っていた部分があったんですね。アニメオリジナルのシーンはそうしたところを復活させてもらっている形で、少し変な言い方かもしれませんが、アニメオリジナルの要素が入っているというより、アニメの方が原作よりも「原作通り」なんです(笑)。

――完成した映像をご覧になって、特にアニメとしての出来に驚かれたところはありますか?

上山 たくさんあって選べないくらいですが……憲三郎の描写で、一見冴えないんだけど、芯は外していないところをちゃんと描いてくれたのはうれしかったですね。アニメ化するとなったら、もっとわかりやすく笑いをとるために、ドジなところを派手に描くとかも、選択肢としてはありえたはずなんです。でもそういうことをしないで、原作の味を活かしてくれた。キャラの描写でいうと、グレイスがかわいいんですよねぇ~。

――口ぶりに実感がこもっていらっしゃいますね。

上山 自分が生み出したキャラなのでなんですけど(笑)、言ってしまえば悪役令嬢の集合無意識みたいな形で考えた、ドリル縦ロール金髪ツリ目のデザインだったんですね。それを松苗はる香さんというめちゃくちゃうまいアニメーターさんが、アニメ用のキャラクターデザインに起こしてくれたら、もうこれがかわいくて、かわいくて。

 松苗さんはおじさんを描かせても、ちゃんと骨格からおじさんらしく描ける人なんですよね。むしろ自分は最初にキャラデザとして亜細亜堂さんからご提案をいただいたとき、そっちの方に注目していたくらいだったんですが、美少女を描かせても抜群にうまい。グレイスだけじゃなく、ジョゼットなんかも、ヤバいかわいさですね(笑)。

――わかります!

上山 あと、イケメンたちにしても、どこかしら愛嬌があって、作品の雰囲気に合っているのが素晴らしいと思っています。

――日常芝居の所作の美しさも印象に残りました。

上山 さすが亜細亜堂さん、さすが竹内哲也監督ですよね。ものすごく細かいところなんですけど、(アニメの)1話の登校途中のシーン(※5:20あたり)があるじゃないですか。あそこでグレイスのまわりを歩いている後ろ姿のモブ生徒たちの歩きのモーションが、肩の上しか映っていないのに、ちゃんと足が地面を踏んでいるのがわかる動き方をしているんですよね。

――たしかに。重心移動がわかりますね。

上山 普通のアニメだと、地味なシーンですし、なんとなく上下移動させるくらいで済ませてしまうと思うんです。ダビングに立ち会わせていただいたときにびっくりして、思わず監督に「どれだけうまい原画さんや動画さんにお願いするとこういう表現ができるんですか?」と訊いたら、ちょっと恥ずかしそうに監督が「そこは僕がちょっと手を加えました……」と。

――素晴らしい話ですね。地味なカットも手を抜かず、自ら直す監督と、その努力にちゃんと気づいてあげられる原作者の先生……。

上山 僕はもともと、竹内監督がアクション作画監督として活躍されていた『終末のイゼッタ』が好きだったんですよ。アクションが本当に魅力的な作品でした。アクションがうまく作れる人は、ギャグもうまいんですね。どっちも大事なのは「間」だから。1フレームの間がズレただけで「あれ?」となってしまうアクションをバシッと決められる人が、ギャグをやったらキレキレになると思っていたら、まさにでした。竹内さんが初監督作として『悪役令嬢転生おじさん』を選んでくれたことは、本当に幸運でしたね。

――ED(エンディング)の反響も大きかったですね。

上山 「マツケンサンバ」をED曲にするとプロデューサーから聞いた時点で、話題になるとは思っていたんですけど、映像もあそこまで手間のかかったものになるとは思いませんでしたね。EDは止め絵とか、ちょっとしたリピートのアニメくらいかと思っていたのに、全編新規カットで、おまけに情報量が多い。一度や二度ではわからないくらいネタが詰め込まれていて、繰り返し見ても楽しいと思いますね、あれは。

(C)上山道郎・少年画報社/悪役令嬢転生おじさん製作委員会・MBS

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