「認知症の母の介護でつらい時期、救ってくれたのは『悪役令嬢』でした」――おじさん×悪役令嬢で話題のアニメ『悪役令嬢転生おじさん』。原作者・上山道郎インタビュー
更新日:2025/2/20
「今が自分の人生のピークです」母の介護を通して膨らんだ、世の中への感謝の念
――ここまでのお話をうかがうと、まだまだ『悪役令嬢転生おじさん』の連載は楽しく続いていきそうですね。アニメも盛り上がって……。
上山 間違いなく今が自分の人生のピークですよね。というか、これ以上のピークはなくていい(笑)。
――いやいや、そんな。
上山 でも本当に、ずっと母の介護があって、亡くなったあとも、まだいろいろな手続きとかが終わってなくて、生活の方は本当に大変なんだけれども、仕事の方は好調で……「禍福はあざなえる縄の如し」なんて申しますが、まさにここ5年というもの、人生の振り幅というか、いいことと悪いことの幅が広すぎたんです。今、そこで得た経験を、漫画を通じて、憲三郎に託していけたらいいかなとは思っていますね。読んでくれる人の役に立つ……とまではいわなくても、ちょっとしたアドバイスであったり、癒しであったりに、作品がなってくれたらいい。母の介護を経験して、自分の中で一番変わったところがあるんです。
――なんでしょうか?
上山 あらゆることに感謝できるようになったんです。介護は本当に大変なんだけれども、その一方で介護の現場には介護のプロの方……行政の方であり、施設の職員さんであり、他にもさまざまな立場のプロの人たちがいて、本当に親身になって、考えてくれる。そうやって人が助けてくれるから、生きていられたし、細細と漫画を描くこともできた。あらゆることに対して感謝できるようになった気持ちを忘れないようにして、これからは世の中に対して恩返しをしていかなきゃいけないな……と思っています。
「苦労したあとにはいいことがある」みたいな考え方を全面的には受け入れられないというか、「嫌なことがあったからその分いいことがあるべきだ」みたいな考え方はあんまりしたくないんだけど……一方で、「積み重ねたものは裏切らない」というか、誰か、どこかに自分の頑張りを見ててくれる人がいるんだなっていうことは、今回わかりやすく作品がヒットするという形で見えてきた。ここから先は、ちょっとまとまりのない話になるんですけれども、いいですか?
――はい。
上山 面白いのは、長年漫画を描いていると、本当に意外なところで昔、僕の漫画のファンだという人に会うことがあるんです。母の介護をしていても、意外なところで、「昔『コロコロコミック』で読んでました」という人と会ったりする。だから、いいものも悪いものも、やっぱり積み重ねたものは見えてくる。特に50歳を過ぎた頃から、だんだんと、はっきりと見えてくるようになったんだなと感じています。さきほどお話ししたとおり、『悪役令嬢転生おじさん』が漫画としてそれなりにまとめられていることにしても、これまで積み重ねてきた技術が無駄ではなかった、ということなんだと感じるわけです。だから今後も、お天道様に恥じないようなことを、積み重ねていければいいな……と、最近の僕は、強く思う次第ですね。
取材・文=前田久
TVアニメ『悪役令嬢転生おじさん』
放送日時:毎週木曜 深夜0:26~
原作:上山道郎
監督:竹内哲也
公式サイト:https://tensei-ojisan.com/