「いかにも盗みそう」風貌で誤解されるスノーボーダー。それでもなお信念を貫く理由とは?【漫画家インタビュー】
公開日:2025/3/8

最新の書籍や人気の漫画作品の情報を発信する「ダ・ヴィンチWeb」。今SNSを中心に話題を集めているホットな漫画を、作者へのインタビューを交えて紹介する。
周囲から必要以上に警戒されてしまうスノーボーダーの姿を描いた『誤解されがちなスノーボーダーのマンガ』をピックアップ。コワモテな風貌と熱く優しい性格とのギャップに、大きな反響が寄せられた。
この記事では『誤解されがちなスノーボーダーのマンガ』の作者であるMUSASHIさん(@MU5A5H1)さんにインタビューを行い、創作のきっかけやみどころについて語ってもらった。
「いかにも盗みそう」「近づいちゃダメ」厳しい声を浴びせられてもスタイルを曲げない主人公
イカつい見た目のスノーボーダー・呂山。そのチンピラ風のルックスから、誤解されることは日常茶飯事だ。スキー場の利用客が落としたお札を拾っても「だめよそれ!私のだから!返して!」と詰め寄られてしまう。
「こーゆー時は…ありがとうって言うんだぜ」そう問いかけても、「いかにも盗みそうなチンピラみたいなかっこしてんじゃないの!」と捨て台詞を吐かれる始末だ。
偶然出会った女の子と和やかに会話を交わしていても、その保護者からは「ああいう人に近づいちゃダメ!」「怖い人たちだから」と警戒されてしまう。
見た目で判断されることに葛藤はあるものの、呂山は自分のスタイルを変えない。彼の仲間たちも、文句をいいながらそんな呂山を尊重している。
やがて呂山たちは、先ほどの女の子がスノーボーダーに衝突された現場に遭遇。しかしまたしても「お前らっ!今逃げた奴の仲間か!?」と、誤解されてしまう。反抗したい気持ちをグッと呑み込み、呂山は不届きなスノーボーダーを捕まえるために走り出すのだった。
お金が飛んでくるシーンはほぼ実話。「ダメよ!返して!と本当に言われました」
―『誤解されがちなスノーボーダーのマンガ』を創作したきっかけを教えてください。
バンクーバー五輪で「スノーボーダーの服装騒動」が起きたあたりから、世間から見たスノーボーダーのイメージはあまり良くないものなのだな、という認識がありました。そのイメージと実際のスノーボーダーとのズレをうまく物語にできないか、と思ったのがきっかけです。
―本作を描くうえでとくにこだわった点はどこでしょうか。
キャラクターのギャップをうまく描きたかったので、主人公の優しさを強調するために見た目をあえてワルそうに仕上げました。さらに粗暴さも加えて、より人間っぽさを感じられるようにしています。
「スタイルにこだわる」という、彼の一本筋の通った生き様がとても気に入っています。
自分自身もスノーボードをやっている以上、滑っている時の体の動きにも気をつかっています。マンガなので忠実に表現しすぎる必要はないと思っていますが、いくら劇的でもあまりに不自然な動きは描けなかったりしますね。
―スノーボードプレイヤーはどうしても怖く見られがちなイメージがあります。本作には、外見から先行する悪いイメージを払拭してほしいというオーディエンスへのメッセージが込められているのでしょうか?
僕が実際に会ったスノーボーダー達は、今よりもっとうまくなりたいという純粋な思いのもと、自由に滑りながら自己表現していました。スノーボーダーは周りにどう見られようがスタイルを変える人たちではないので、たとえ風当たりが強くとも周囲からの目はあまり気にしていない方がほとんどでしたね。
見た目で判断することが過剰になると、肌の色や人種によって対応を変える差別に繋がりかねません。そういう危険をはらんでいることをオーディエンスに考えてもらえればいいな、という思いはあります。
―MUSASHIさんはスノーボード歴20年とお聞きしています。20年の間に起きた出来事は、どんな風に作品へ昇華されていますか。
20年といっても滑走日数はそれほど多くないのですが、限られた時間の中で様々なスノーボーダーに出会いました。プロのスノーボーダーから趣味で滑っている一般の方まで、みんなが多様な背景をもちながらスノーボードを楽しんでいるんです。そのあたりはとても参考にしています。
冒頭に描いたお金が飛んでくるシーンは、ほぼ実話です。僕はそこまでワルそうな格好はしてなかったのですが、風で飛んで来たお金を拾ったら「だめよ!返して!」と言われました。一緒にいた友達と「ありがとうでしょうが…」とツッコミを入れたのをよく覚えています。
―オリンピック競技となり、一定の市民権を得たスノーボードの更なる発展のために必要なことは何だとお考えですか。
スノーボードに限ったことではありませんが、そのスポーツにはじめてふれる人たちが気軽に体験できる環境は大事だと思います。やってみたいと思ってもらうきっかけとして、マンガはとてもいいコンテンツです。そのためにもおもしろいマンガが描ければいいなと思っています。
―今後の目標を教えてください。
スノーボード専門誌での連載経験はありますが、マンガ専門誌でもぜひスノーボードマンガを連載してみたいですね。
―作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。
いつも応援してくれてありがとう。同じくスノーボードをテーマにした読み切りの最新作『BOARDER'S STYLE』を『くらげバンチ』(新潮社)で発表いたしました。ぜひそちらもチェックしてみてください。