万城目学の名作小説をコミカライズ! 愛する老犬に寄り添うアカトラ猫の冒険と決断の物語【書評】

マンガ

公開日:2025/2/27

 人生の中ではたくさんの出会いと別れが繰り返される。そんな誰もが経験する喜びと悲しみを、少女と猫それぞれの目線から描いた『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』(万城目学:原作、にごたろ:漫画/KADOKAWA)。

 第143回直木賞候補作品にもなった名作小説を、「拾い猫のモチャ」シリーズの漫画家・にごたろ氏があたたかいタッチでコミカライズした作品だ。
 
 小学1年生の女の子・かのこちゃんは、年老いた柴犬・玄三郎を飼っている。激しい雨が降った日、玄三郎の犬小屋に逃げ込んできたのはアカトラの猫・マドレーヌ夫人だった。

advertisement

 元気いっぱいなかのこちゃんをそっと見守る、マドレーヌ夫人と玄三郎。その穏やかで美しい物語に心をつかまれてしまう。

 好奇心旺盛なかのこちゃんは、愉快で個性的なクラスメイトたちとの交流を通して日々成長していく。かのこちゃんの日常は、小学生らしい悩みや発見に満ちていてなんとも可愛らしい。指しゃぶりをやめられないことに悩んだり、難しい言葉でクラスメイトと勝負したり、なんとか茶柱を立てようと奮起したり…。たくさんの「はじめて」と出会う心の動きは、どこか懐かしい気持ちにさせられる。

 マドレーヌ夫人はというと、愛する老犬・玄三郎の願いを叶えるべく大冒険を繰り広げる。犬と猫という違いはあれど、互いを想い合う2匹。その愛情の強さに胸が熱くなる。 

 やがてかのこちゃんとマドレーヌ夫人は「玄三郎との別れ」と向き合うことになる。マドレーヌ夫人にとっては愛する者とのお別れ。かのこちゃんにとっては愛犬の死。

 生きていく上で避けられない別れの悲しみに何を感じ、成長していくのか。

 かのこちゃんの葛藤やマドレーヌ夫人の深い愛情を、最後まで見届けてもらいたい。物語の静かな余韻が、あなたの心を満たしてくれるだろう。

文=ネゴト / fumi

あわせて読みたい