月詠み主宰ユリイ・カノン「表現したい世界を構築するために、音楽と小説、どちらも必要なんです」【インタビュー】
公開日:2025/3/7
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年4月号からの転載です。

取材・文=イガラシダイ
音楽と小説、双方向からひとつの世界観を表現するプロジェクト「月詠み」。主宰するユリイ・カノンさんは中学生の頃からボカロPとしての活動をスタートさせ、自身が抱える思いを作品に込めてきた人物だ。
「当時の私は、とにかく何かを表現したくて仕方なかったんです。小説や曲を通して、誰かに自分のことを理解してもらいたかったのかもしれません。とはいえ、私が生み出したものが誰かに届くなんて、無理だろうな……と諦める気持ちもありました」
しかし、悩みながらも生み出した音楽をYouTubeに投稿してみると、瞬く間に大きな支持を集めた。
「想像以上に反響があったことに驚きましたし、生きていて良かったとさえ思いました。そして、応援してくれる人が増えていくにつれて、表現する上での動機も変化していったんです。いまは『理解してもらいたい』という気持ちよりも、『私の曲が誰かの世界の一部になったらいいな』と思っています」
SNS上で活動をはじめたのは2015年のこと。それから5年後の20年に「月詠み」が始動した。
「曲を投稿しはじめてから小説からは少し離れていたんですが、やっぱり私には小説も必要なんだと気付いて、『月詠み』では音楽と小説を融合させることを目指しました。制作ではまず、結末の場面が思い浮かぶんです。それを逆算するように、そこに至るまでの過程を考えながら、ストーリーを組み立てていきます。それを音楽と小説、ふたつで表現していくイメージですね」
2月には2nd Storyの総まとめとなるミニアルバム『それを僕らは神様と呼ぶ』をリリースした。CDとセットとなる文庫本に綴られているのは、死の匂いが色濃く漂う、ふたりの少女が織りなす物語だ。
「身近な人が亡くなった経験を経て、これまでの人生で幾度も死について考えてきました。死というものはごく自然なもので、どんな人にも訪れます。だからこそ、無駄に生きるのは勿体ない。心の底から『生きたい』と思ったときに手遅れにならないように、どんな人にも貴重な人生を生きてもらいたい。千春と照那というふたりの少女の生き様には、そんな思いも投影しました」
“死の運命”を変えるため、千春と照那は奔走する。小説ではその一連の流れが描かれ、それぞれの楽曲は物語のワンシーンを想起させる仕上がりになっている。音楽と小説、どちらも味わうことで初めて、ユリイさんが作品に込めたメッセージを理解することができるだろう。
「小説を読む前と読んだ後だと、曲の聞こえ方が変わると思います。だからまずはまっさらな状態で聞いてもらって、その後、小説を通して答え合わせをしていただくと良いのかな、と」
2nd Storyの発表を終えたのも束の間、ユリイさんのなかには表現したいことがまだまだ渦巻いているという。
「制作をしていると、どんどん次の物語を思い付いてしまうんです。だから、これからも形にしていきたい。音楽と小説、という形式も続けていきます。曲を作っていると小説を書きたくなるし、小説を書いていると曲を作りたくなるので、私にとってはどちらもなくてはならないものなんだと思います。もちろん、さらに違う表現にチャレンジする可能性もあるので、楽しみにしてくださると嬉しいです」
つくよみ●ボカロPとして活躍するユリイ・カノンが主宰する音楽プロジェクト。ユリイさんの執筆による「物語」を軸に、「音楽」を発信している。6thシングル「生きるよすが」のMVが1000万再生をキャリア最速で突破。海外からも注目を集める。

『それを僕らは神様と呼ぶ』
月詠み
ビクターエンタテインメント
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「人が死ぬ」予知夢を見る千春と、自殺するところを千春に止められた照那。ふたりは、千春の予知夢が現実になることを阻止しようとするが──。「生と死」をテーマに、ふたりの少女が織りなす物語を、音楽と小説によって描き出す。