デブキャラデビューの日/絶望ライン工 独身獄中記㊴

暮らし

公開日:2025/3/5

飯はなんて旨いのだろう。健康であればいつ食っても旨い。
朝食べるお茶漬け、昼弁当の握り飯、仕事終わりに飲んだ〆に食う目玉焼き丼。
1日3回の飯が楽しみで仕方ない。
さて休みともなれば五反田に出かけ、日高屋で昼ビールを浴びながらこれから食べる飯についてあれこれと吟味する。
ココイチでチキン煮込みほうれん草豚しゃぶウインナ魚フライカツカレー(1辛)か。
階段登ってねぎしに上がり、5種盛りわんぱくセットで麦飯を3杯食うか。
それともいつもの豚山で小ぶたニンニクヤサイアブラ味玉をキメるものもいいな。
喜多方ラーメン坂内で食べた後ホテル街のパパ活おじどもを観察するもよし。
おにやんまの殺伐とした雰囲気の中でちくわ天うどんをかっこむのも小粋だ。

そんな吟味が最高の肴になる。
おつまみなどいらぬ、ビール以外何も頼まず、ひたすら飲んで飯に想いを馳せる。
職場近くの日高屋なら飲んだ後ラギョウチャセットが定番だが、ここは五反田。
大好きなチェイン店が並ぶ魅惑の街、降り立つだけでワクワクする。

そんなだから当然太る。体重が増え、鏡を見る度絶句する。
焦ってダイエットをしようにも誘惑にまったく勝てない。
ジムで走り、汗を流した帰りにやはり日高屋が目に入る。
いつもよりキラキラと輝いて見えるんだ、あの「回高屋」と書いてある看板が。
今飲んだら旨いだろうな──そんな色気に負けちまう。

レジスタンスとして増える体重に精一杯の抵抗を試みるも、結果は散々である。
太るのをやめろ! 肥満反対! デモをしたって聞いてはくれない。
そこで私は、この現実を受け入れることにしました。
40代中年男性、と聞いて思い浮かぶオッサンは皆太っている。
世間のイメージに身体が追い付いてきたのだと前向きに受け取ろう。

質量のある物体は皆重力を持っている。
地球のそれが強すぎて普段あまり感じることがないが、体重が増える=自身の重力が強まったと考えることができる。
重力は当然、宇宙を構成する4つの力に含まれる。
これはすごい事だ。年収が高くても、イケメンでも、尖った靴履いて高齢者にマンション売って稼いでいても宇宙ではまったく通用しない。
強い核力、弱い核力、電磁気力、そして重力がこの世界の理である。
宇宙規模で考えた時、観測された体重増加はさながら地獄の天体ショーだ。

そしてこの際だから思い切ってキャラ変をする。
普通のオッサンからデブキャラに属性チェンジをしちまう。
40代から始める素敵なデブキャラ、僕もあなたもデブキャラデビュー。
もう「太ったね」などと言われることもなく、思う存分好きなものを食べることができる。
だってデブキャラなんだから。

服装も変える。アロハシャツにハットをかぶり、いつもニコニコ愉快なボクちゃん。
皆に愛されるオシャレな微笑みデブに大変身だ。
ぶかぶかの服を着てヒップホップを騙るのもいい。
そういえば今太ったラッパー全然見なくなってしまった、舐達麻もドープネスも痩せていてカッコいい。
きっと太ったラッパーは富と成功の証だったんだな。
富と成功の証が微笑みデブとなった自分、そう考えれば納得できる。

デブキャラなのだからもちろん喋りかたも変わるwww
デュフフwww ヨダレでちゃったwww
この「www」という記号はワールドワイドウェブの略であり、世界との繋りを意味している。
同様にハイパーテキストトランスファープロコトルを採用しているデブも多いが、近年では安全性を重視しセキュアを追記したものが主流になりつつある。

デュフフフwww 原稿終わったし五反田行っちゃおうかなwww
もう腹ペコぺコリンチョhttps

<第40回に続く>

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絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。