少年サンデー編集長「コナンの本筋は“黒ずくめの組織との戦い”ではない!?」。ヒット作連発の根底にある「面白がることの大切さ」【大嶋一範インタビュー 前編】
公開日:2025/3/19
サンデーに配属されて『名探偵コナン』の未来を知る
ーーコロコロから週刊少年サンデー編集部に異動されたとのことですが、カルチャーの違いは感じましたか?
大嶋:コロコロコミックが、みんなでゲームしたり、最新ホビーで遊んだりと部室みたいな居心地の良さがあったのに対して、サンデー編集部はしーんと静かな印象がありました。もちろん雑誌を作る以上、チームの連帯感はあるのですが、週刊少年漫画誌は、漫画家さんと向き合う個人商店であり、競争で雑誌の中の枠を取り合っている場所なんですよね。
ーー仲間というよりはライバルという感覚でしょうか。
大嶋:そうですね。コロコロって『デュエル・マスターズ』がヒットすると、企画会議ではみんなでデュエマの企画を出し合って考えるんです。サンデーでは、ヒット作の担当者は発言力も影響力も増しますし、他の編集者は悔しがるみたいな。そういった文化の違いがあるなと思いました。
ーーサンデーではどういった作品を担当されたのですか?
大嶋:2014年頃、まず、当時の編集長から『名探偵コナン』をやってくれと言われました。「コロコロでホビーやアニメの知見もあるから、コナンのビジネスに関わるいろんな会社とうまくやってくれる」みたいな意図があったようですね。
ーーいきなり青山先生の担当編集になるって、凄まじいプレッシャーだと思うのですが。
大嶋:もちろん中学生時代から『コナン』を読んでいたので、先生に初めてお会いしたときは本当にドキドキしましたね。あと、何回か打合せを重ねたタイミングで、ある程度ご信頼頂いたのか『コナン』の先々の展開を教えていただいたんです。「あ、これは絶対に漏らしてはいけないものだ…!」と(笑)。
ーー頭のなかにすごく大事な情報がインプットされてしまったわけですね。
大嶋:これは本当に詳しく言えないのですが、様々な考察や検証が飛び交っているなかで、まだ皆様が気付いていないだろうことも仕込まれているんです。それを編集者は知っているわけですが、どの情報がすでに公開されていて、どの情報がまだ伏せられているのか間違えないようにしないと、うっかりサンデー本誌の柱コメント等で情報を出してしまわないか、ずっと不安な日々を過ごしていました。先生はアニメのスタッフさんにも重要な展開はお話しされているそうでが、皆さんちゃんと内緒にされていて、日本のコンテンツ業界の人はちゃんとしているなと思います(笑)。

『名探偵コナン』の軸は蘭と新一のラブコメ
ーーもう少し『コナン』についてお聞かせください。日々の連載は、担当編集としてどのように携わっていたのでしょうか?
大嶋:『コナン』は大まかに事件の発生、展開、解決が3週間のサイクルで回るようになっていました。それで3週に1回、トリックや動機を決める打ち合わせを青山先生としていました。そこから先は先生の描かれるネームを見て、もしわかりづらいところがあればお伝えする、という流れですね。
ーー編集者も一緒にトリックを考えるんですね。
大嶋:よく勘違いされるのですが、原作『名探偵コナン』にトリックメーカーさんはいないんです。基本的に青山先生がお一人で全部考えていて、編集者はトリックのアイデア出しのお手伝いをしているという感じですね。
ーー担当編集を務めて、新たに気付いた『コナン』の魅力があればぜひ教えてください。
大嶋:長期連載なので、ある程度パターン化したものを繰り返しているという印象を持っている方もいると思うんです。ですが実際は、ものすごいスピードでストーリーが展開しているんですよ。私の印象としては、先生はキャラの関係の進展や、驚き、作品全体の謎が明かされていく凄く面白い部分をどんどんお描きになっていると感じます。
ーー俗に言う「引き伸ばし」みたいなことはまったくないぞと。
大嶋:そうですね。「この情報を将来出すために、こういう伏線を張って、ここで回収して…」ということを、すごく緻密にやられています。しかもあれだけ長いお話しでたくさんのキャラが出るのに、過去に描かれたことや情報を鮮明に覚えてらっしゃって執筆されているのは新鮮な驚きでした。
ーーすごく面白いお話です!黒ずくめの組織との最終決戦がますます楽しみになりました…。
大嶋:ありがとうございます。でも僕としては、黒ずくめの組織との戦いは、自分も大好きだけど本筋じゃないかもしれない、と思っているんです。『名探偵コナン』の軸はあくまで蘭ちゃんと新一のラブコメで、それを盛り上げるべく様々なキャラクターや事件があるという作品なんじゃないかと思っています。