米津玄師・つるまいかだ『メダリスト』で描かれる「親子の庇護と自立」を語る。「手を放す」というフレーズに込めた“強さと温かさ”【「BOW AND ARROW」インタビュー】
公開日:2025/3/8

ダ・ヴィンチWebでは、米津玄師さんと『メダリスト』原作者・つるまいかださんの対談を実施した。「BOW AND ARROW」そして『メダリスト』で描かれる、いのりと司先生の関係性。また、幼少期の記憶を交えて「親子の庇護と依存」についてお互いの思いを語った。
ハチの楽曲は思春期のアイデンティティ
ーー本日はよろしくお願いいたします。米津さんが『メダリスト』をお好きで「曲を作らせていただきたい」と打診したそうですが、まず本作を知ったきっかけを教えてください。
米津玄師(以下、米津):2022年に『メダリスト』が「次にくるマンガ大賞」で1位を取りましたよね。その記事をみたのがきっかけでした。読んでみたら本当にひときわ面白くて「これはすごい漫画だな!」と思ったのを覚えています。キャラクターの感情が表情や身体表現に表れていて、スケートシーンとかもびっくりするぐらい絵の圧が強くて。
つるまいかだ(以下、つるま):ありがとうございます!恐縮です。
ーーつるま先生は米津さんの楽曲を元々聴かれていたのでしょうか?
つるま:以前、ボーカロイドにハマっていて「週刊VOCALOIDランキング」という動画を見ていたんです。そこでハチさんの「Persona Alice」が紹介されていて、その曲がきっかけでハチさんのファンになりました。
米津:すげえ懐かしいです。
つるま:まだ「結ンデ開イテ羅刹ト骸」を発表される前に出会えたので「たくさんの人が知らない自分だけのものを好きでいたい」という、私の当時の不安定なアイデンティティを形成する要素の1つになってくれたんです。大人になっても、あの頃の不安定な自分を大切に思っていて。今でも米津さんの曲を欠かさずに聴いて、その度に過去の自分を思い出しています。
米津:そういう人と出会う為に音楽を作り続けているところもあるので、とても嬉しいです。
ーーそれほどお好きだった米津さんが主題歌を担当されるというのは、本当にすごい巡り合わせです。
つるま:米津さんの音楽が好きな人は星の数ほどいらっしゃるので、私はその大きすぎる当たり判定の一部だっただけです。現実の出来事とは思えませんでしたが「いや、ここで喜ばないでどうするのだ」と思って。担当編集さんと「すごいよ!アーティスト界の金メダリストだよ!」と、大はしゃぎしました。

「手を放す」というフレーズの温かさと強さ
ーーここからは「BOW AND ARROW」について色々お聞かせください。米津さんは『メダリスト』のどういった点からインスピレーションを受けて楽曲制作したのでしょうか?
米津:当初、アニメチームの方より、「ピースサイン」のような疾走感のある感じ、というオーダーがありました。「ピースサイン」が子どもたちの目線で「そのまま突っ走っていく」というような曲なのですが、その延長線上にある曲として「今回は大人の目線というか、庇護する側の目線として書いたら何かいいものになるのではないか」というようなことを考えていたのは、すごく覚えています。
『メダリスト』を読んでいると、自分は司に感情移入するところが大きいんです。「自分だったらこのくらいの年代の女の子とどうやって向き合うだろう」「自分はこんなにうまくできない」と想像していました。そうしたところから、『メダリスト』という作品のためにも、自分のためにも、何か1曲作れるのでないかという感じがあったんです。
ーー「BOW AND ARROW」というタイトルは、いのりと司の関係からインスピレーションを受けたのでしょうか?
米津:そうですね。ただ、モチーフが最初からあったわけではなくて。アニメ尺を作り終わって「タイトルを決めないとまずい」という話になったんです。ただ、押し出す者と押し出される者という関係性の、象徴的な言葉として「手を放す」という言葉はあって。押し出す者、押し出される者。「戦闘機とカタパルト」とか「ハンマー投げ」とか、そういうことをウロウロしていって、最終的に弓と矢ということになりました。弓と矢にしといてよかったなと思います(笑)。
ーーつるま先生は楽曲を聴いて、いかがでしたか?
つるま:「手を放す」は、私も一番刺さったフレーズでした。『メダリスト』ではまさに「送り出す/送り出される」という関係を書きたいなと思っているんです。手を握り続けることは、子供の心の安全基地を形成するためには絶対に必要なことです。でも、個人として生きる強さを獲得するためには冒険や旅立ちもまた必要だと思っていて。それを「手を放す」というフレーズでこんなに温かく強く表せるのだと、すごく感動しました。
米津:すごくありがたいです。主題歌を作るとき、自分はあくまで漫画そのものには関わらない部外者なので「これ大丈夫かな」という不安が毎回あって。だから本当、その言葉を聞けてすごくうれしいというか、安心できるというか…ありがたいですね。
