俺様人気脚本家×不幸体質な薄幸青年のはがゆい恋物語、待望の書籍化。『恋する食卓』【書評】

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更新日:2025/3/5

恋する食卓樋口美沙緒:著、末広マチ:イラスト/白泉社

  電子書籍として発売されていた大人気シリーズ『恋する食卓』(樋口美沙緒:著、末広マチ:イラスト/白泉社) が、1冊にまとまり書籍化する。

 才色兼備の脚本家と不幸体質な幼馴染みの2人が織りなす温かくもはがゆい恋模様と、キャラクターの隠された秘密に迫るストーリー展開には、誰もが心をきゅっと締め付けられるはずだ。

 主人公の櫛木隼(くしき・しゅん) は才色兼備の売れっ子脚本家。実家は田舎の大地主という、生まれもって「日の当たる人生」を送り続けて来た男だ。

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 そんな完全無比の彼が唯一思い通りにならないのが、幼馴染の円野幸宏 (まどの ・ゆきひろ)ことユキ。ユキは優しいがどんくさく、どこか幸の薄い存在。母子家庭で貧しい生活をしている。

 隼は幼い頃からユキが好きだった。素直には表現できないものの、ユキが困っている時はどんなことでもしてやりたいとあれこれ世話を焼く。しかしユキは決して自分を頼ってくれない。あまつさえ告白まで「してやった」のにフラれてしまう……という苦渋の過去があった。

 それから10年。高校卒業後は 離れ離れだった2人は、職を求めて上京してきたユキが隼のマンションに居候する形で共同生活を始めることになる。しかし相変わらず2人の関係は隼の一方通行。さらにユキには、なにやら不穏な秘密があることが分かり、事態は急展開して……というのがあらすじである。

 本作は、とにかく“はがゆい”。「好きなのに」、様々な理由から――隼は性格的に、ユキは自らの生い立ちや暗い過去から――素直になれない2人が、「好き」と言う言葉は交わせないけれど、相手のために出来ることを、今の自分が出来る限界まで、お互いに与えようとする姿が健気で愛おしく、反面「神様なんで2人を幸せにしてくれないのですか……(涙)」と祈りたくなるようなストーリー展開である。

 キャラクターの造形もいい。攻めの隼も、ここまで恵まれて自信満々だと嫌味のひとつも感じそうだが、ユキへの愛情表現が空回りしてしまう 不器用さやフラれる不憫さ。「カッコいい成功者なのに報われない」ところが愛おしい。

 一方で受けのユキ。純真無垢で優しい反面、物語中盤で秘かに隼に劣等感を抱いていたことが分かる。生まれながらに何でも持っている隼が自分に優しくするのは、ただの同情ではないかと思ったり、優しくされるたびに、自分が「弱者」であることを思い知らされ、プライドが傷ついていたりするのだ。私はこのユキの負の部分が垣間見えたことで、一層この登場人物を好きになった。その人間味が愛おしいと感じられたし、劣等感を抱いてしまうのも、大いに共感できるからだ。

 はがゆい。でも愛おしい。そんな応援したくなる2人の恋模様を、ぜひお手に取って読んでみてほしい。

文=雨野裾

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