幼い自分を虐げた祖父が亡くなった。“ややこしい家族”のもとに帰郷した主人公の複雑な胸中【書評】

マンガ

公開日:2025/3/18

 家族の形はさまざまで、それぞれに事情がある。時には価値観の違いに苛立ち、距離を置きたくなる瞬間もあるだろう。それでも、ふとしたときに思い出す温かさや小さな気遣いは、離れてもなお心に残り続けるもの。面倒な一面やわずらわしさも含め、家族という関係は私たちにとってかけがえのないものなのだ。

しくじり家族』(五十嵐大:原作、さく兵衛:作画/KADOKAWA)は、そんな一例をリアリティ豊かに描く。本作は、映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」のモデルとしても注目された著者の原点となるエッセイ(CCCメディアハウス)のコミカライズだ。実体験をもとに描かれた物語は、読み手に家族の絆の尊さを再認識させてくれる。

advertisement

 主人公・大は、耳の聴こえない両親、宗教に傾倒する祖母、暴力的な元ヤクザの祖父のもとで育った青年。複雑な家庭環境に嫌気がさし、大人になると逃げるように上京した。しかしある日、祖父の危篤を知らされ、久しぶりに帰省することに。

 疎遠になっていた家族と再び向き合う難しさは並大抵ではない。過去のわだかまりがしこりのように残っているためか会話はぎこちなく、無理に歩み寄ろうとするとかえって気まずさが増す。それでも、祖父の死をきっかけに徐々に歩み寄り、新たな関係を築こうとするが――。

 本作は、祖父を悼む気持ちと向き合う家族が、薄れかけた絆を再び結び直していく過程をきわめて繊細に描写している。

 生前の祖父は気難しい人で、周囲と良好な関係を築いていたとは言い難かった。それでも、完全に孤立していたわけではない。幼い頃、聴覚障害のある自分をかばってくれたと話す母。死んでしまったらもう何もできないと涙する伯母。悲しみを分かち合い、思い出を語る中で、祖父は祖父なりの形で家族に愛情を示していたことに主人公は初めて気づく。

 良い関係を保つためには、時には心の奥にしまい込んでいた感情を吐露する場面も必要なのかもしれない。家族との関係を見直したい人や、自分の感情と向き合うことに苦しんでいる人にはぜひ手に取ってみてほしい作品だ。

文=ネゴト / 糸野旬

あわせて読みたい