突如消えたママ友。完璧で幸せだと思っていた彼女の失踪から、自分たちの「ほの暗い感情」に気づく。読み進めるほどにゾッとする“ママ友”漫画【書評】
更新日:2025/3/29
近年はドラマの題材になることも多い「ママ友」の世界。時にママ友の存在に心を救われることもあるが、面倒ごとやストレスなどのネガティブなイメージも抱きがち。ママ友の世界は、世間が思っているよりもずっと奥が深いのかもしれない。そんな「ママ友」の世界をテーマに描いた漫画を4作品ご紹介しよう。
消えたママ友

第25回「手塚治虫文化賞」短編賞に輝き、宮部みゆきら人気作家たちが激賞を贈ったミステリーコミックエッセイ『消えたママ友』(野原広子/KADOKAWA)。ある日突然、ツバサ君のママである有紀が失踪してしまった。優しい夫に姑、そして可愛い息子に囲まれて幸せそうだった彼女がなぜ――?
ママ友の間では「男を作って逃げた」という噂で持ち切り。しかし有紀と仲良しだった春香、ヨリコ、友子の3人には、それぞれ思い当たることがあった……。平凡な日常の中に突如訪れた「ママ友の失踪事件」。春香たちはじわじわと自分たちが抱える“ほの暗い感情”に気づき始める。
同作はただ単にママ友たちの妬みや嫉みを描いた作品ではない。有紀が生きているのかどうかすら分からない事実により、読者の想像力を掻き立てる上質なミステリー作品となっている。なぜ有紀の携帯を夫のノボルが持っているのか? 父親のDVをほのめかすツバサ君の発言は本当なのか? 失踪する前、有紀がこぼしていた「死にたい」という言葉の意味は? まるで最悪の事態を裏付けるかのような事実に、思わずページをめくる手が止まらなくなるはず。
その人って本当に、ママ友ですか?

『その人って本当に、ママ友ですか?』(ちなきち/KADOKAWA)で描かれていくのは、日常に潜む人間関係のホラーとママ友トラブル。夫の仕事の都合で見知らぬ土地に引っ越してきた主婦のサキは、やんちゃざかりの息子の世話と家庭を顧みない夫との生活に心を病みかけていた。
SNSの世界に逃げ込んだ彼女は、そこでママ友のマリ、リカコと知り合い、リアルでも交流を重ねるようになる。マリとリカコの存在に心を救われていたサキだったが、ふたりと親しくなった頃から自宅にある私物が次々となくなってしまうのだ。まさかと思いながらも、ある時リカコが着ていたワンピースを見て疑念はより強固なものとなる。彼女が着ていたのはサキのクローゼットからなくなった大切なワンピースと同じものだった――。
関係を壊したくないあまり踏み込めないサキだったが、傍観者だったサキの夫のケンが介入することになり、事態は一変。実はケンとリカコは知り合いで、何やら一連の事件に心当たりがあるらしい。リカコの目的が明らかになった時、タイトルに込められた意味が分かるだろう。
ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望

卒業したと思ったスクールカーストが、ママになったらまた再開……。『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』(野原広子/KADOKAWA)は、ママ友とのちょっとした誤解、嫉妬、ストレスの矛先となってしまった末に起きる仲違いをリアルに描いていく。
夫と子どもの3人で郊外に暮らす主婦のサキ。彼女の幼稚園ママとしての穏やかな日常は、親友だと思っていたママ友の心境の変化で突如崩れ去る。いつの間にか「サキちゃん」「リエちゃん」と下の名前で呼び合う仲になっていたママ友。幼稚園終わりには毎日公園に行っていた。しかし子どもが年長になった頃から、何かが変わってしまう。
いつの間にかあいさつしても無視されるようになり、仲間外れにされていたサキ。原因はちょっとした勘違いだった。しかし本当にそれだけだったのか……。何か反撃してやりたい気持ちになるも、「もしも子どもまでいじめられるようになってしまったら」という不安が頭をよぎる。これはどんな場所でも、誰にでも起こりうること。読み進めていくたびに、自然と背中がゾクゾクしてくるかも?
ママ友と付き合わなかったらウチの娘がハブられた

いくつになっても良好な人間関係を築き上げるのは大変だ。ママ友ともなればなおさらだろう。だったら誰とも付き合わないほうがいっそラク。世の中にはそう考える人も少なくないが、時にママ友との付き合いが子どもの友人関係に影響を及ぼすこともある。『ママ友と付き合わなかったらウチの娘がハブられた』(おから:原作、モリコヨリ:漫画/KADOKAWA)は、コミュ障ゆえにママ友付き合いに失敗した主婦・おから氏の物語。
「ママ友が欲しい」と思っていてもコミュ障ゆえになかなかうまくいかない彼女は、いつしか「ママ友なんて一生できなくてもいいや」と思うようになっていた。実妹のナツコから「ママの仲が悪いとその子どもの仲も悪くなったりしちゃうんだから」と忠告を受けても、「まさか~」で済ませてしまったおから氏。その“まさか”が現実になるとも知らずに――。
保育園の卒園まで残り3カ月というタイミングで、娘のはるが友だちから「親友じゃない」と言われて仲間外れにされてしまったのだ。まさに妹の言っていた通りになってしまった事態に驚きつつも、おから氏は愛する娘のために一念発起。ありったけの勇気でママ友を作ろうと奔走していく。キラキラのリア充ママとどう向き合う? 本当のママ友とは? と考えさせられる作品だ。
同じような悩みを抱える人にとって、ママ友同士のリアルな人間関係や、それぞれの家庭での悩みを描いた作品は、一筋の希望になるかもしれない。
文=ハララ書房