壮絶な幼少期、自分の親が普通じゃないと知ったのは大人になってからだった――“毒親”と向き合った人たちの実体験を描いた漫画【書評】
公開日:2025/4/10
子どもの人生を支配し、成長に悪影響を与える「毒親」。近年よく耳にするようになったが、毒親に翻弄された子どもは、のちに他者との関係などで深刻な悩みを抱えてしまうケースも少なくない。身近に助けてくれる人がいれば一番なのだが、同じような境遇にいた誰かの体験談が毒親に苦しむ人たちの救いになることもある。本稿では、そんな毒親との物語を綴った作品を4つご紹介していく。
※本稿では虐待の描写を含む作品を紹介しています。あらかじめご了承の上お読みください。
毒親に育てられました 母から逃げて自分を取り戻すまで

『毒親に育てられました 母から逃げて自分を取り戻すまで』(つつみ/KADOKAWA)は、著者のつつみ氏が母から精神的に逃れるまでの心の変化をまとめた一冊。幼少期、つつみ氏は祖父母に育てられていた。しかしある日、母親が迎えに来る。
派手な洋服を着た華やかな母と暮らすことになったつつみ氏を待ち受けていたのは、暴言、体罰、ネグレクト……。地獄のような日々はつつみ氏に呪いとなって刻み込まれ、大人になってからも過去のトラウマからくるうつ病を発症させるほどだった。
そんな彼女に向いていたのは、1冊のノートに過去の辛かった出来事や忘れられない出来事など、トラウマの原因をひたすら書いていく「日記療法」。抗うつ剤を服用しながら自宅療養も兼ねて漫画を描き続け、彼女のうつ病はすっかり良くなっていったという。自分も毒親に苦しめられた過去があるという人は、つつみ氏の心の変化は大いに参考になるだろう。
毒親に愛されなくて恋愛依存になりました

毒親に苦しめられながらも、和解の道を選んだ著者の実話コミックエッセイ『毒親に愛されなくて恋愛依存になりました』(鳥野うずら/KADOKAWA)。同作に登場する“毒母”もまた、かなり強烈だ。
著者の鳥野うずら氏が8歳の頃、両親の関係は非常に険悪で、母親は八つ当たりするかのようにうずら氏を責め立てていた。洗濯物が自分のものだけカゴから廊下に投げ出されていたり、真冬に下着姿で家の外に追い出されたり……。親の機嫌次第では夕食にもありつけない。そんな過酷な環境が長らく続き、いつしかうずら氏の価値観は歪み、反抗心から恋愛依存になってしまう。
しかし母親はうずら氏が恋愛することが気に食わず、相手に嫌がらせをして無理やり別れさせることもあった。もはやうずら氏と母親の関係は修復不可能なほど最悪に思えるが、そこからどうやって和解に至るのだろうか。もちろん毒親への対処法は和解だけではない。しかし、おそらく最も厳しい道である和解を選べるなら、選びたい人もいるのではないだろうか。気になる人はチェックしてみてほしい。
なんで私が不倫の子 汚部屋の理由と東大の意味

『なんで私が不倫の子 汚部屋の理由と東大の意味』(ハミ山クリニカ/竹書房)の著者であるハミ山クリニカ氏は、東京藝大に合格するも中退し、東大を受験し直して合格する多才な人物。そんなハミ山氏の毒親との確執とは……。
ハミ山氏は母とのふたり暮らし。タイトルの通りハミ山氏は母と父の不倫の末にできた子どもだが、その事実は大人になるまで知らずにいた。小学生までは父が自宅に来る機会が多かったこともあり家の中は普通だったが、中学生になってだんだん父が訪れる頻度が減っていくと部屋はどんどん乱雑に。ついにはゴミの上に布団を敷くような、汚部屋になっていた。
さらに母はハミ山氏の交友関係にケチをつけたり、学校で出される課題に頼んでいないのに手を加えたりと過干渉気味に……。そのうえ難癖をつけてハミ山氏を追い詰め、自分の行いを正当化する。そんな母親を冷静に捉えられるようになり、やがてハミ山氏は自立への道に進んでいく。しかし過去の環境が、ハミ山氏に劣等感を植え付けていた――。親子、そして家庭について深く考えさせられる1冊だ。
家族、辞めてもいいですか?

壮絶な人生を送りながらも、それが普通でないことを知ったのは大人になってからだった――。『家族、辞めてもいいですか?』は、著者である魚田コットン氏の実体験に基づく物語。
コットン氏は小学生の多感な時期に両親の離婚から母子家庭になり、母親は家を留守にしがち、兄も家に帰らない日々、家は荒れ放題で、姉とふたりだけの生活になっていた。母親は平気で娘をこき下ろし、全く愛情を注がない。そして母親は10歳以上若い男と再婚し、コットン氏はその男から性的虐待を10年にわたって受けることになる。
年齢を重ねるにつれ、自身の境遇が普通でないことを理解していくコットン氏。かといってできることは何もない。何度も母親に期待を裏切られて育った経験から、人間不信に陥っている。幼少の頃から家族に翻弄され続け、大人になっても過去が尾を引く、そんな状況からコットン氏は、どうやって自分の価値を見出していくのだろうか……。結末はぜひその目で確かめてみてほしい。
文=ハララ書房