えっ、今の聞こえなかった!? 妻を無視して出ていく夫…「話さないこと」以外は完璧なのに【書評】
公開日:2025/3/28

家事や育児を手伝ってくれない、夫の収入が低く生活が苦しいなど、夫婦の数だけさまざまな悩みがある。しかし、もし夫が家事も育児も協力的で、十分な稼ぎもあり生活を支えてくれているなら、悩みなく生活できるのだろうか。
『夫と会話になりません』(上野りゅうじん/祥伝社)は、仕事をこなし家事や育児にも積極的な「理想の夫」と、専業主婦の妻・彩子の“会話のない家庭”の現実に迫る。
主人公の彩子は、デザイン会社に勤める夫・裕介と4歳の息子と暮らしている。裕介は生活に困らないほどの稼ぎで家庭を支えながら、家事にも育児にも協力的だ。休日は息子とふたりで出かけるほど子煩悩な夫について、周りから「いい旦那さん」と羨ましがられることも多い。
しかし彩子にはひとつ気になることがある。夫との会話がまったく広がらないのだ。
「夫が家事をしない」「育児に協力しない」といった、よく聞く悩みなら周りにも相談しやすい。しかし彩子のように「他は完璧だけど、会話がなくて…」という悩みを打ち明けることは、なかなか難しいだろう。同じように、他者には打ち明けにくい夫婦生活にまつわる悩みを抱えている人は多いのではないだろうか。
もちろん、話さない夫・裕介にも悩みがある。本作を読むと「話さないこと」が積み重なる恐ろしさを痛感する。
会話を避けていては、お互いの怒りにも苦しみにも気づくことはできない。同じ屋根の下で衣食住をともにしていても、話すべきことを話し合わないままだと、夫婦でありながらも見知らぬ他人以上に遠い存在になっていく可能性もある。
もしあなたが周りには言いにくい夫婦の悩みを抱えているなら、本作に多くの共通点を見出せるかもしれない。とくに「理想の配偶者」の外側の条件は満たされていながらも、家庭の中で孤独を感じている人は強く共感できるはずだ。夫婦関係に悩む妻にも、夫にも、ぜひ読んでほしい。
文=ネゴト / くるみ