オフィスラブのお相手は噂のハイスぺイケメン!? 性格も仕事の向き合い方も正反対なふたりが繰り広げる恋の攻防戦【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/3/27

背中合わせで恋をするもりのもみじ:作画、九条睦月:原作/DPNブックス

 個々の能力だけでなく、チームワークが求められることも多い仕事の場には、多様な性格や価値観を持つ人々が集まるのが一般的だ。新たなアイデアを生み出すタイプの人間や、リスクを回避しミスなく進めたがる慎重派も。論理的に物事を進める人もいれば、感覚的に動く人もいるだろう。
 
 こうした相互補完の関係が尊敬や信頼へとつながり、やがて恋愛感情へと発展することもあるかもしれない。『背中合わせで恋をする』(もりのもみじ:作画、九条睦月:原作/DPNブックス)はまさしくそのような関係をリアリティ豊かに描いた、至極のオフィスラブストーリーだ。

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 主人公・蔵本琴莉は、大手広告代理店の総務部で働く契約社員。彼女の働きぶりは上司や同僚も認めていて、正社員への打診も何度も受けていた。しかし、「責任感を持ってそこそこにこなす」が彼女のモットー。自らのキャリアの可能性を広げる道はあえて選ばず、何度正社員への打診を受けても断り続けているのだった。

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 そんなある日、琴莉は販売部の白嶺から「紹介したい人がいる」と呼び出され、指定の店へと向かう。そこで待っていたのはなんと、大手化粧品メーカーの御曹司であり、会社の専属トップヘアメイクアーティストとしても名高い人物・桐島隼人だった。端正な顔立ちに物腰の柔らかさ、洗練されたしぐさは、多くの女性の心を惹きつける。

 どぎまぎする琴莉だったが、続く白嶺の提案にはさらに度肝を抜かれることに。販売部に異動し、桐島専属の秘書にならないか――。面倒ごとはできる限り回避したい主義の琴莉は当然断ったが、「給料1.2倍」「次の契約更新までの期限付きで」との甘い言葉には抗いきれなかった。そして、秘書として付き切りで多忙な彼のサポートに当たる慌ただしい日々が半ば唐突に始まったのだが――。

 本作の魅力は、主人公の琴莉と天才アーティストである桐島が正反対の性格ゆえに惹かれ合っていく、その過程の甘酸っぱさだ。ヘアメイクアーティストとしては一流だが、事務処理能力はイマイチで、どこかズボラな一面もある桐島。仕事に対し並々ならぬ情熱を持ち、時には私生活を犠牲にしてでも成果を追い求めるタイプの彼の在り方は、効率を重視し淡々と業務をこなす琴莉とは対照的だ。しかし、彼の誠実さや信念を知るうちに、頑なだった琴莉の心も少しずつ和らぎはじめる。

 仕事に対する考え方がまったく真逆のふたりが、自分とは異なる考え方や価値観に触れて刺激を受けつつ、少しずつ絆を深めていく様子はじれったくも微笑ましい。さらに話が進むにつれ、琴莉が仕事に対し一線を引いている理由がしだいに明らかになっていくのも見どころのひとつである。

 仕事は人生の大半の時間を占めるものだ。もちろん仕事に対する価値観は人それぞれ異なるが、困難なプロジェクトを乗り越えたときの達成感や、互いに支え合う中で生まれる信頼関係は、特別な感情を育むきっかけとなりやすい。だからこそ、琴莉と桐島が仕事を通じて相手の本質を知り、惹かれ合っていく過程には現実的な説得力がある。

 また、同僚や上司との関係、業務への影響といったさまざまな要素が絡むため一朝一夕には成就しないところも、オフィスラブの醍醐味のひとつ。ワケあり契約社員とハイスペックイケメンの前途多難な恋の行方を、どうか見届けてほしい。

文=ネゴト / 糸野旬

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