びしょ濡れで泣きながら帰った日。憧れの演劇部での挫折と、そこで見つけた“本当に大切なもの”【漫画家インタビュー】

マンガ

公開日:2025/3/30

 最新の書籍や人気の漫画作品の情報を発信する「ダ・ヴィンチWeb」。今SNSを中心に話題を集めているホットな漫画を、作者へのインタビューを交えて紹介する。

 高校時代の演劇部での思い出を描いたエッセイ『浅はかな考えで高校演劇部に入ったら 人生の大転機がおとずれた話』をピックアップ。

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『ガラスの仮面』に憧れて演劇部に入部したものの、キャストオーディションで想定外の落選。波瀾万丈な幕開けとなった演劇部生活だったが、その経験で作者は大切なものに気づかされたという。切なくも勇気がもらえる結末に、「演劇部のこういう体験記、もっと読みたい!」「元気がもらえました!」との反響が寄せられている。

 この記事では、作者・もりさわたみこ(@tamitin0914)さんにインタビューを行い、創作のきっかけやみどころについて語ってもらった。

主役をやりたい!と自信満々だったけれど……

 演劇部へ入部したもりさわさんは、「主役を勝ちとってやる!」「スポットライトを浴びるぞ」と意気込んでいた。

 根拠のない自信を武器にキャストオーディションに挑んだものの、結果は落選。そこから衣装チームに所属することになり、衣装製作にのめり込んでいく。

 もりさわさんはこの経験を通して、舞台をみんなで作り上げていくことのおもしろさに気づいたという。

 時は流れ、高校3年生。シナリオや演出を手がけるほどに成長したもりさわさんだったが、全国大会出場に手が届くぞ! というところで、またしても試練がおとずれる……。

キャストオーディションに落選。だからこそ分かった“本当に大切なもの”

ーー『浅はかな考えで高校演劇部に入ったら 人生の大転機がおとずれた話』を創作した理由と、作品の見どころを教えてください。

 演劇部へ入部したあとは思い通りにならないことの連続でした。それでも、そこから逃げなかったことで「与えられた仕事を完走する大切さ」「創作をする上で必要な粘り強さ」を知りました。その喜びを忘れたくなくて漫画という形で残したのがこの作品です。

 当時高校生だった私は「頑張ること」に憧れていました。苦しみながら頑張れば欲しいものを手に入れられる!と肩に力が入りまくっていて……。

 今だから分かることですが、本当に大切なのは「自分の適性に気づくこと」なんですよね。

 キャストオーディションはボロ負けでも、衣装デザインは採用してもらえた。その経験から、「苦しまずとも人の役に立てることがある」「ひとつのことに固執しなければ人生はもっと楽しくなる」ということをお伝えしたい……と思いながら執筆しました。

ーーキャストオーディションに落ちてしまったつらい時間は、どのような気持ちで過ごしていましたか?

 あの時のことは今でも鮮明に思い出せます!

 キャストオーディションの落選は、まさに人生で初めての挫折。キャストに受かった仲良しグループの子は、気まずさからか私の方を見ないんです。彼女は選ばれて喜びいっぱいのはずなのにそれを表に出さず……。そんな気づかいが逆につらくて、「忘れ物をしたから先に帰って」と告げてひとりで下校することにしました。

 奇しくも突然の夕立ち。びしょ濡れで大泣きしながら帰路を全力疾走しました! その時は足元から崩れていくような絶望感でいっぱいでした。

 青春していたなぁ! 唯一無二の経験ができたなぁ! と、今では良い思い出です。

ーーもりさわさんにとって様々な思い出が詰まっている本作ですが、とくに気に入っているシーンはどこでしょうか。

「舞台演出ってすべて計算なんだ」と悟るシーンです。

 舞台って何度も演じるものなので、そのたびに変わってしまっていては成り立たない。音響や照明もタイミングを合わせないとバラバラになってしまいます。息を合わせるためにはキャストとスタッフの連携が何よりも大切なんです。そこに気づけたことは、私の財産になりました。

 それは演劇に限らず世の中のすべてのお仕事に当てはまりますし、私が漫画家というお仕事を続けられているのもこの体験のおかげです。

ーー他校の舞台を見たあと「自分の邪推を恥じた」と赤裸々に語られているところが印象的でした。クリエイティブなお仕事上、他者と比較してしまうことは今も少なからずあると思いますが、どうやって気持ちを切り替えていますか?

 他者と比較してしまった時の気持ちの切り替えは、今でも苦手です。気を抜くと「私が作らなくても世界は魅力的な創作で溢れている」という思考になってしまいます。

 そういう時は、「とにかく寝る」につきますね。長い時間をかけて執筆していると、視野が狭くなって作画崩れを起こし、最終的に時間を無駄にしてしまうので……。「起床時間と就寝時間を厳守すること」でメンタルを保つようにしています。

ーー現在、部活動で過去のもりさわさんと同じような境遇にいる学生さんへ声をかけるとしたら、どんな言葉を届けたいですか。

「大丈夫です! なんとかなります!」でしょうか。

 作中でも描いたのですが、舞台はみんなで作るもので、監督、演出、制作、照明、衣装、大道具、小道具……どれが欠けてもお芝居にはなりません。全体のお仕事を体験すれば演技に厚みが出ますし、その経験と知識はぜったいに無駄にはならないです! なにより、メンバーとの仲を円滑にすることができます。

 興味がない部門だったとしても、気にせずに飛び込んでいってほしいですね。やりたいポジションにつけなかった悲しみは、少しずつ時間とともに薄れていきます。どうか安心してください。

ーー今後の展望や目標を教えてください。

 読むたびに発見があり、味が深まっていく。カバーが外れて表紙がボロボロになっているけれど捨てられない漫画、あなたの本棚にもありませんか? そういう作品を作ることが目標です。

ーー作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

 生きることって、喜びと悲しみが交互に訪れるジェットコースターのようなものです。それに振り回されすぎて「もう嫌だな」……と感じることもしばしばなのですが、そんな中でも目をそらさず、きらりと光るものを拾いあげ、皆さまに作品としてお届けできたらと思っています。

取材・文=ネゴト / あまみん

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