ぶっきらぼうな竜人の美少年との同居生活。美しく珍しいがため抱えた孤独が、少女との交流を通じて癒されていく【書評】
公開日:2025/4/4

縞あさとさんが描くマンガには、喪失の気配がただよっている。難病治療のため人工冬眠した初恋の男性が、7年ぶりに目を覚まして同級生となった『君は春に目を醒ます』では、再会の喜びとときめきだけでなく、7年の空白がもたらす彼の痛みを繊細に描いていたのが印象的だった。最新作『汐風と竜のすみか』(いずれも白泉社)は、竜とおぼしき特徴や能力を備えた「竜人」と呼ばれる人たちとの交流を描いた物語。
父を亡くし、竜人の研究者である叔父に引き取られた主人公・瑞花(みずか)は、同い年の竜人・天辰(てんしん)と3人で暮らすことになる。その日々は驚きの連続で、しんみり感傷に浸る暇もないほどあわただしいが、なじみのない土地で瑞花は、自分がよそ者であるという感覚を捨てきれない。叔父は優しく、天辰はぶっきらぼうであるものの面倒見がよく、新しい友達はつくれないままではあるが、さみしさにふるえることもない。それでも、居場所を失った心細さと、大切な人がいついなくなるともしれない不安が、瑞花を常に、はかなげに揺らしている。その情緒が、セリフではなく、ふとした表情や彼女が目にする海辺の景色とともに映し出されて、読んでいるこちらもときどき、ひどく切なくなってしまう。
そしてその、ぬぐいきれないよそ者感は、天辰が抱くものと通じる。肌には鱗があり、竜の化身のような何かを身にまとい、とんでもない高さから飛び降りても平気な顔をしている彼は、ふつうの人間とは違う。鱗で腕を硬化させ、爪の伸びた獣のような手に変化して、瑞花を脅かすこともある。背中に翼をはやして空を飛び、その美しさで魅了することも。


それでも、彼は、ふつうの男の子なのである。すぐ近くに自分の家があるのに、どうして戻らず叔父の家に居候しているのか。その理由はいまだわからないけれど、彼の心にも何か、ぽっかり穴があいているような気配がただよっている。竜人である、というだけでなく、見た目の麗しさから人並み以上に注目を集めることに自覚的な彼は、その境遇を受けいれ、適当にいなしてはいるけれど、傷ついていないわけじゃないのだろうということも、ふとした表情やセリフからうかがい知れる。
だからこそ、同じ家に住む同士として、対等に向き合おうとする瑞花のまなざしが、彼の心を少しずつ溶かしているのだろう。天辰の鱗を拾ってはしゃぐ同級生に、「自分の髪の毛やかさぶたを他人に持って帰られたらいやじゃない?」と瑞花が言ってとりもどしてくれたことは、天辰にとってはきっと、宝物のような瞬間だったのではないか。

美しいものは愛でたいし、できることなら手元に置いておきたい。そんな自分勝手な欲求を、私たちはときに「推し」という言葉や「みんなやってる」という前例をたてに正当化してしまう。でも、自分の思いもよらぬ場所で人は、傷ついたりさみしさを抱えたりしているものである。今はまだ、天辰が抱えているものが何かわからないけれど、巻を追うごとに少しずつ、2人が人間と竜人の壁をこえて、互いの喪失を少しずつ埋めていけたらいいなと思う。その美しい景色を、この先も見届けたい。

文=立花もも