嘘つきは泥棒の始まり/絶望ライン工 独身獄中記㊶
公開日:2025/4/2

仕事終わりにコンビニに寄る。
ローソンの鶏竜田揚げ弁当、これが実に旨いのだ。
ザクザクの衣におろしポン酢をかけ、ワカメご飯とともにかっこむ。
汁物にワンタンスープでもつけたらたまらねえ晩飯になる。
700円を超える高貴な晩餐会、それならビールも飲まねばなるまい。
缶ビール1本じゃ足りない。2本買ってポテチもつける。
こうして労働で稼いだ日銭をそのまんま夜に散財しちまう。江戸っ子である。
家までの道も気分がいい。左手にぶら下げているコンビニ袋には、なんてったって今夜の酒宴がご機嫌に詰まっていやがる。
約束された快楽はずしんと重い。思わず顔の高さまでレジ袋を掲げ、自撮りをしてみる。
写真をSNSに投稿し、最高の夜である旨声明を公告するためだ。
すると通りの向こうから1台のタクシーが減速して、方向指示器をチラチラ光らせながら傍らに停車した。
左手を上げる動作を誤認したらしい、運転手がこちらを見ている。
ごめんなさい、間違えましたとジェスチャーで伝えると、またチラチラ光りながらタクシーは走り去った。
紛らわしい挙動をしてすまなかったなと思うと同時に、ここまで読んでくれた読者にも同じ気持ちである。
ここまで20行消費したこの話はデタラメの嘘っぱちだからです。
正確にはまったくの事実無根というわけではなく、連載に書いて面白くなるよう脚色を加えました。
実際にはタクシーは停まらず、少し減速しただけですぐに走り去ったのだ。
嘘というのは実に味わい深い。
真実の中に少しだけ嘘を混ぜる脚色、嘘の中に少しだけ真実を混ぜる虚飾。
どちらも私が好むリアルな虚構であり、真実と幻想の曖昧な境界にしか存在しえない張り詰めた緊張感がある。
コップにギリギリまで入れた麦茶、あれに似ている気がする。
よく「貧乏なフリすんなや嘘つき」とか「本当はタワマンに住んどるやろ」等のご意見を頂くが、すべて嘘では虚構は成り立たない。
実際の生活が根幹にあってこそ、少しだけ加えた嘘が漸く映える。(それは演出などと呼ばれるやうだ)
この境界を楽しんでくださる方に向けて、今日も誠意を込めて精一杯の嘘をつくってわけ。
しかしながら例えば「貧乏なフリ」とかはクリティカルな嘘ではないし、なんなら嘘をついている実感すらない。
自衛のため収入を過少申告することはあっても、飯を煮炊きする実際の暮らしはそのままである。
ただ、クリティカルな嘘も確かについている。
それは暇なフリをしていること。
よく発信している「休日が暇で何もすることがない」なんてことはこの3年間1日もない。
10分の動画を作るのに20時間かかるのである。
貴殿が読まれているこのくだらない散文──読むのに5分とかかるまい──は担当に出したり戻ってきて直したりとやはり10時間以上を必要とする。
そんなことを述べるのは無粋だし、何より忙しいアピアルは総じてカッコ悪いと感じるため敢えて言わぬだけである。
もし今後「暇なフリすんなや嘘つき」「飲む余裕ないやろ酒飲みアピすんな」等のご意見を頂くなら、それには返す言葉もない。
最後になるが、本稿はまったくの事実無根で嘘っぱちであることをここに正直に書き記す。
ライア・イズ・インターンシップ・オブ・バンディット。
42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。