坂本真綾さんが選んだ1冊は?「無理に答えを出さなくてもいい。その言葉にとても励まされました」

あの人と本の話 and more

公開日:2025/4/11

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年5月号からの転載です。

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、坂本真綾さん。

(取材・文=倉田モトキ)

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 高校時代から大学にかけて、哲学に触れる機会が多かったという坂本さん。当時は「“哲学”そのものの概念や解釈に理解が及ばなかった」そうだが、『水中の哲学者たち』を読み、その意識が一変したと話す。

「例えば『生きる意味』や『神の存在』を考えるとき、大前提として、“答えが出なくて当然”という懐の広い言葉を、永井さんはわかりやすくエッセイの形で教えてくれているんです。大事なのはいろんな人と意見を交わし、己の知見や解釈を広げていくこと。そうした〈哲学対話〉は、正解かどうかもわからないままネットの多くの声に流されてしまいがちな今の時代において、とても大切なことだなと感じました」

 また、思考が迷宮入りしそうになっても、深く静かに考えていくことが哲学。まるで水に潜るようなこの感覚にも、坂本さんは強く共感する。

「10代の頃から続けている作詞はまさに自分の内面に潜っていく感じなんです。ただ私の場合、深く潜って何かしらのきっかけを掴めても、結局、言葉がまとまらなかったりする。いつもその繰り返しで不安にもなるのですが、永井さんに“そのままでいいんだよ”と背中を押してもらえたようで、励みになりましたね」

 悪魔で執事のセバスチャンと、英国の裏社会の秩序を正す13歳のシエル。2人の活躍を描いた『黒執事』のアニメ最新作「緑の魔女編」がついにスタートする。シエルの過去などが描かれる一方で、今回の物語に深遠さを与えているのが、〈狼の谷〉の若き領主・サリヴァンの存在だ。

「私が演じるシエルと年齢の近い彼女は辛い運命に翻弄されている。これぞ『黒執事』と言えるダークな世界観の中で、使命感を持って純粋に生きているサリヴァンのことを、私もどんどん好きになっていきました」

 村人に尽くすサリヴァンの願いは、一度でいいから村を出ることだ。

「ただ、外の世界を知らないままのほうが幸せかもしれない。シエルがサリヴァンに迫る“選択”には、彼なりの優しさを感じました。似た人生を歩んできたからこそのシンパシーもあったように思いますね」

 そのシエルも物語の前半では、とある事件をきっかけに、これまで見せたことのない感情をあらわにする。

「心の奥に封じ込めてきた思いが爆発していく。トラウマが発動しているのはわかるけど、彼の中で何が起きているのかまでははっきりしない。ぜひその原因なども考察しながらご覧いただければと思います」

さかもと・まあや●1980年、東京都生まれ。声優、女優、歌手、ラジオパーソナリティとして活躍。主な代表作にミュージカル『レ・ミゼラブル』、アニメ『チ。―地球の運動について―』ラファウ役など。最新曲「Drops」がアニメ『ある魔女が死ぬまで』のオープニング主題歌に。

『水中の哲学者たち』
永井玲衣 晶文社 1760円(税込)
哲学研究者の永井玲衣が難解な印象をもたれがちな哲学について、カジュアルな視点で面白さを説いたエッセイ。ひとつのテーマについて大勢で考えていく〈哲学対話〉の体験をもとに、普段の我々の生活の中にも哲学的な問題とそれぞれの解釈が存在していることを指南。初心者の入門書としてもおすすめの一冊。

アニメ『黒執事 -緑の魔女編-』
原作:枢 やな『黒執事』(月刊『Gファンタジー』掲載/スクウェア・エニックス刊) 監督:岡田堅二朗 シリーズ構成:吉野弘幸 出演:小野大輔、坂本真綾、釘宮理恵、小林親弘ほか 4月5日より放送開始
●19世紀の英国、執事のセバスチャンと主人のシエルは“女王の番犬”として裏社会の仕事を請け負っていた。女王の命令で、不可解な死亡事件が続くドイツの〈人狼(ヴェアヴォルフ)の森〉に赴いた2人は、そこで若き領主・サリヴァンと出会う。村人を守る彼女は〈緑の魔女〉としての宿命を背負っていた。
(C) Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler