ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、丸木文華『冷たい骨に化粧』
公開日:2025/4/4
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年5月号からの転載です。

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
(写真=首藤幹夫)
丸木文華『冷たい骨に化粧』

講談社 1980円(税込)
●あらすじ●
夕暮れ時に家に訪れた、夫の不倫相手だと語る女性(「あやか」)に、秘密を抱えた母娘の逃避行(「真夜中のドライブ」)、そして夫の生徒から送られてきたという美しきもどこか不気味な原稿(「双子心中」)――。さまざまな秘密と嘘を巡り、衝撃の結末を迎える全9編を収録した、極上の短編集。
まるき・ぶんげ●埼玉県生まれ。小説家、シナリオライター。『コイビト遊戯』『蝶の毒 華の鎖』などのゲームに加え、著書に「兄弟」シリーズ、「フェロモン探偵」シリーズなど多数。BL・TL作品に留まらず、近年は一般レーベルでも活動の幅を広げている。
【編集部寸評】

ふらちな世界が目まぐるしい
本書に収録された9編には、ダークサイドへの憧憬を窺える嗜好と共に世界を一変させる一行が潜んでいる。たとえば「あやか」は、臨月の妊婦のもとに、旦那の不倫相手という女が何度も訪ねてくる。「これだから女は」では、冒頭から女性を蔑む一人語りが展開される。アンモラルな内容に眉を顰めつつも、魅惑されるようにページを捲ると、突如として視界が開ける瞬間を味わえる。少ない枚数で世界を作り上げ、覆す。その手腕に舌を巻いた。次はもっと長い物語を読んでみたい。要注目。
似田貝大介 本誌編集長。本書を読んで、2006年5月号の「不埒なプラチナ文庫本」という特集を思い出しました。丸木さんのBL作品にも興味津々です。

死や絶望からこそ「生」がほとばしる!
どの短編からも死や憎悪や絶望の匂いがするのに、読み終えるとなぜか力強く「生」が立ち昇ってくる不思議な読み心地である。特に印象に残ったのが「真夜中のドライブ」。ある女子高生の視点から、彼女の母が祖父を殺した顛末が語られるストーリーで、本書でもとりわけ死の気配が濃厚に漂う。だが最後に彼女が「絶対に幸せに生きてやるのだ」と高らかに宣言すると、死や憎悪や絶望からこそ強烈な生が立ちあがるのだ!という妙な高揚感が訪れる。そうだ。絶対に幸せに生きてやろうな。
西條弓子 陰の気が漂ってるよ!と言われたので払拭するべくホットヨガへ。だがいちばん気に入ったスタジオが何か暗い。そこが良いのだが、それで良いのか?

得体のしれない女たち
美しさと恐ろしさが両立すると感じるのは、どちらも私の考えの及ばないルールに則って構築されているからかもしれない。「愛妻家」では、バーで隣に座った客が、かつての自分の妻がいかに悪女だったか、そんな彼女をいかに愛していたかを滔々と語りかけてくる。戦後の日本を生き抜く悪女の所業はかなり残酷なのに、紳士の口からは彼女を称える美しい言葉ばかりが溢れ、その勢いが、怖い。でももっと聞きたい。そんなほの暗い欲望で彩られた短編に、絡めとられるような読書だった。
三村遼子 この冬は寝る前にハーブティーを飲むのにはまってティーバッグを買い漁っていたのですが、暖かくなるにつれて消費量が減り、持て余し始めています。

気持ち良く惑わされる
美しく毒を持った9編には、現実と嘘が、生と死が混在する。時代背景もさまざまだが、一貫してまとう不穏な空気に病みつきになってしまう。「愛妻家」で熱っぽく語られる、甘くていい匂いのする根っからの悪女、「双子心中」で、真面目な教師が溺れた理想の美しい女など、登場人物にも麗しい筆致にも、人を惑わす引力がある。特に印象的なのは、最後に収められている、不思議な女性とバス停で出会う「赤い傘」。それまで毒のある物語に胸がざわついていただけに、ラストが沁みた。
久保田朝子 いまだに花粉症とは無縁なのですが、鼻がグズグズするたびに「今年こそついに花粉症デビューか?」とドキドキしながら過ごしています。

虜になる中毒性
衝撃の結末の数々に唸らされた。どこか不穏な空気をはらみながら展開されていく9編は、決して明確にその先が示されているものばかりではない。しかし、委ねられる心地よさもまた感じられ、気づけばそれぞれの物語の虜になっている。「楽しい話をしてあげる」では、作り話が得意な女の子が描かれる。彼女が語るものは、果たして何が現実で虚構なのか。その間を描き出す巧みな表現に言葉を呑んだ。きっと「もっともっと」と求めずにはいられない、中毒的な読み心地にぜひ溺れてほしい。
前田 萌 花粉に苦しめられています。外出するたびに止まらなくなるくしゃみと目の痒み。暖かくなるのは嬉しいのですが……。毎年の悩みです。

気付いたら全く違う景色に放り込まれる
本書の帯には「極上の毒とどんでん返し」と書かれているが、まさに期待を裏切らない9編の「どんでん返し」が詰まっている。生と死、男と女、夢と現実。そのいくつものあいまいな境界線の中を漂っているような不思議な感覚で読み進めていく。そして物語の終わりに差し掛かる頃、世界の見え方が一変していることに驚くに違いない。どの短編もサクッと読めてしまう文字量でありながらつい「先を読みたい」と思わせる筆致。刺激的な物語の世界に触れたい方にぜひおすすめしたい。
笹渕りり子 くどうれいんさんの新刊『湯気を食べる』に影響され、自炊をよくしている。エッセイを参考にして作ったたまご丼はシンプルで絶品の味でした。

あぁ、また騙された!
224ページに短編が9編と1編あたりの分量は短いのに、見事に騙される。配偶者の浮気、愛する妻について語る男、小学生の女の子のかわいい作り話、嫌味なおじさんの一人語り……と思いきや、の連続。テキストから拾い上げた要素から、自分が無意識に思い込みをしていたことに気づかされて愕然とする。次こそは結末を見破ってやるぞ、と次の1編を読み始めるのに、次の瞬間にはまた裏切られているからページを捲る手が止まらない。中毒性のある新しい読み心地にぜひ出合ってみてほしい。
三条 凪 騙されたといえば、最近ハマったゲーム「都市伝説解体センター」。途中も楽しいですが、最後にまさかの展開が……ぜひ最後までやってみてください。

「終わりの見えない深淵のように、深く、昏く。」
本を開いて数秒で、ページを埋め尽くす一文一文の美しさに惹かれる。が、それも束の間。耽美な文章を堪能している間にすべての物語は急転直下、衝撃の結末を迎える。「ジンとシャリ」で語られるこの一節。「もう蘇ることのない自身の一部と共存していかなくてはならない」。どうやら私も最初にページをめくったときの、純粋にそこにある文章を見たまま楽しむ自分にはもう戻れないようだ。「一度覚えてしまえば、もう抜け出せないのです」。著者の描く、この毒の味を知ってしまった。
重松実歩 「20代を駆け抜けたい」と思い、飲み屋の多い街に引っ越したものの、たった2カ月のうちに何度も飲みすぎでやらかす。20代のうちに出ていくべき?