スーパーで万引き…? 突然姿を消した夫が変わり果てた姿で見つかった。悪意と狂気を描く至極のサスペンス『デブスの戯れ』【書評】
PR 公開日:2025/5/7

他人の悪意が自分に向けられたとき、それが歪んだものであればあるほど、その恐ろしさは倍増する。相手の主観や嫉妬、妄想によって生じた敵意は特に厄介だ。なぜならその場合、相手はこちらを傷つけることだけを目的としており、合理的な解決などまるで望んでいないのだから。
『デブスの戯れ~あなたの夫は私のもの~』(とらふぐ/DPNブックス)は、まさしくそんな恐怖を味わえる至極のサスペンス。歪んだ執着が生み出す狂気、そして主人公がじわじわと追い詰められる絶妙な心理描写が話題を呼んだ。1話3分のショートドラマアプリ「BUMP」にて、ショートドラマが配信されている。

人生とは予測不可能なものである。どれほど順調に思えても、崩れ去るのは一瞬なのだ。本作の主人公・桐生愛子の場合もそうだった。人気バイヤーとして最前線で活躍する彼女は、優しい夫に愛され、仕事も順調。しかし幸せな日常はある日、何の前触れもなく終わりを告げる。
夫・健斗が突然姿を消したのだ。不安と混乱の中で、愛子は必死に夫の居場所を探し求めるが、何の手がかりも得られないまま、無情にも2年の日々が過ぎたのだった。

そんなある日、ついに警察から夫らしき男性が見つかったとの連絡が入る。愛子はすぐに警察署へと向かうが、そこで対面したのは、かつての健斗とはまるで別人のような男だった。
彼は太り、見た目の印象が激変していた。精悍だった顔立ちは面影もなくなり、無精ひげを生やし、覇気のない目をしている。しかも、彼が警察に保護されたのはスーパーで菓子パンを万引きして通報されたためだと聞き、愛子は言葉を失った。
突然姿を消した夫が、なぜ今になってこんな姿で現れたのか。これまで、どこで何をしていたのか――。彼を問いただそうとする愛子の前に、ある人物が現れる。

本作の見どころは、その意外性に満ちたストーリー展開だ。思いもよらない場面が次々と待ち受けており、思わずページを捲る手が止まらなくなる。中でも、物語の鍵を握る人物・藍子の登場シーンの衝撃はその最たるものだろう。
愛子は、妻である自分を差し置いて夫を引き取りに来たこの女性を知っていた。以前、愛子と夫・健斗が働く会社でパート勤めをしていた人物である。不愛想な彼女は周囲から敬遠されていたが、なぜか愛子には愛想がよかった。バイヤーとして活躍する愛子に憧れていると話していたほどだ。

そんな藍子が、現在なぜ健斗のそばにいるのか? 彼女は当時とは違う姓を名乗り、健斗のことも人違いであると主張。そして、明らかに様子のおかしい夫をそのまま連れ帰ってしまうのだが――。

注目すべきは、主人公を追い詰める女性・藍子の得体の知れない不気味さだ。藍子の周りで相次ぐ不審な事故、そして主人公・愛子と似たような被害に遭ったという女性の証言。物語が進むにつれ、彼女の真の姿や恐るべき目的が徐々に明らかになっていく。
起こった出来事の数々は、はたして単なる偶然の積み重ねなのか、あるいは巧妙に仕組まれた計画の結果だったのか? 主人公・愛子が藍子の陰謀にどう立ち向かうのか、その結末はぜひ、あなた自身の目で確かめてほしい。