死者を弔う者たちの想いや絆を紡ぐ。葬儀屋が見つめる生と死の物語とは【書評】

マンガ

公開日:2025/4/18

 亡くなった人は生き返らない。だからこそ、遺された者は、せめて最期のときを故人が望む形で送り出したいと考えるものだ。

葬儀屋のソウギさん』(桜プリン/KADOKAWA)は、そんなさまざまな葬儀のあり方をやさしいタッチで描き出すオムニバスストーリー。故人との別れにまつわる温かさや希望を感じさせるエピソードの数々、そして作中に広がる幻想的な美しさと不思議な空気感がSNSで大反響を呼んだ。

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 本作のストーリーは、葬儀屋を営む主人公・ソウギさんの視点を軸に描かれる。彼のもとには、故人を送り出す家族や友人たちが毎日のように訪れる。彼らはそれぞれの形で故人の生きざまを振り返り、その人らしい葬儀を、と望む。静かに耳を傾けるソウギさんは、どんな突飛な要望にも動じない。ただ穏やかに頷き、「承知しました」と応えるのだ。

 本作の見どころは、遺された人間が死者に向ける愛情の深さ、そして葬儀に伴う神聖な雰囲気がきわめて繊細に描写されている点だ。

 生前に人魚になりたいと願っていた少女には、白いバラや貝、真珠、珊瑚を鏤めた美しい祭壇を。結婚を目前に事故に遭い永眠した女性には、華やかな花嫁衣裳と桔梗の花で作ったブーケを。星が好きだった故人の棺には、星空から汲み上げた夜水と、夜空に浮かぶ星の欠片を。

 死と向き合うという重いテーマとは裏腹に、作中には悲しみだけでなく、温かな余韻も漂っている。それは、死は終わりではなく人生の一部にすぎないということが、エピソードの端々から伝わってくるからだろう。故人の想いは途切れることなく、遺された者たちの未来へと確かにつながっている。

 静かに流れる時間の中で、生と死を見つめるソウギさん。今日も彼の手によって、それぞれの人生を象徴する葬儀が静かに執り行われていく。死者を弔う者たちの想いや絆を紡ぐ物語の数々を、ぜひじっくりと味わって読んでみてほしい。

文=ネゴト / 糸野旬

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