令和の新定番ジャンル、政略結婚もの。中でも話題の『狼皇子と嘘つきな結婚』が愛されるわけは?【書評】

マンガ

公開日:2025/4/18

狼皇子と嘘つきな結婚音久無/白泉社

 生まれ故郷 で継母たちから虐げられていた姫・アイリンが、本人の意志とは関係なく政治的な事情で大国の第3皇子・ルスランのもとに嫁ぐ。『狼皇子と嘘つきな結婚』(音久無/白泉社)は今や定番ジャンルのひとつになった政略結婚ものの作品だ。

1巻発売直後から大きな話題を呼んだ本作は、電子書籍レンタルサイト「Renta!」の2024年の年間ランキングで「少女漫画 新作売り上げ」部門の第5位にランクイン、2024年に白泉社から配信された電子書籍第1巻及び単巻の売上初速上位10作品に与えられる「白泉社ネクストアワード」も勝ち取るなど、その勢いは留まるところを知らない。

 皇帝の血縁でありながら辺境の地に追いやられて「落ちぶれ皇子」「ボンクラ皇子」と呼ばれているルスラン。そんな彼の裏の顔は国境付近を守る精鋭部隊の隊長だ。穏やかで優しかったルスランが、子どものようなわがままを言ったかと思えば、俺様な態度で接してくることも。ギャップが大きいほど、ときめきも大きくなる。

advertisement

 そんなルスランの愛を一身に受けるアイリンの存在も、本作の大きな魅力だ。一国の姫君という立場でありながら、故郷では継母と異母妹たちからの「醜い」と蔑まれ、母国の役に立つことだけが自分の価値だと思い込んでいた彼女。ルスランのもとに嫁いだあとも、その子どものような背丈から軽んじられることも多いアイリンだが、そんな悲しい状況ながら、純朴でひたすら健気な姿が、どこかコメディライクに描かれており、作品の読み味を明るく保っている。そんなアイリンへのルスランの愛は、回を追うごとに深まっていっている。

 表の顔と裏の顔を使い分けているルスランはもちろん、作中では甘く見られがちなアイリンの魅力も周囲の人々には伝わりづらいものである。2人は「政略結婚」というスタートがあったからこそ、隠されていた互いの魅力に気づくことができたのではないだろうか。そんなルスランとアイリンが共有する秘密を、我々読者もこっそりと分け与えてもらっているような読み心地が、2人への共感を高めてくれる。

 1巻では、アイリンがルスランに救われていく関係が強く印象づけられるが、物語が進むにつれ、その関係に別の側面が出てくるのも面白いポイントだ。まだまだ小さな少女であるアイリンに対して、落ち着いていて余裕たっぷりのルスランは夫であり親でもあるような振る舞いを見せる。だが、2巻で始まる外交旅行では、ルスランもまた国内のさまざまな悪意に晒される立場であることが見えてくる。ルスランの友人たちの登場で、意外と子どもっぽい顔やピュアな側面が見えてくるのも面白い。タイトルにもあるとおり、ルスランにはまだまだ隠されている顔や事情があることが徐々に見えてくる。

 政略結婚ものでは、偽物の関係が本物の信頼関係に変わっていくのが大きな見どころになっている。ルスランとアイリン、互いが互いの救いとなる関係がどう築かれていくのかが、ここからの注目ポイントだ。

文=ダ・ヴィンチWeb編集部

あわせて読みたい