過去にもうひとりの自分が存在した――記憶のない女主人公がたどり着く驚愕の事実、そして恋心の行方は? TVアニメ化&実写映画化で話題のコミック『九龍ジェネリックロマンス』

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PR 公開日:2025/5/6

九龍ジェネリックロマンス眉月じゅん/集英社

 2025年4月よりTVアニメがスタートし、8月には実写映画の公開も予定。そんなWメディア化で話題を集めているのが『九龍ジェネリックロマンス』(眉月じゅん/集英社)だ。切ない恋心が描かれつつミステリーの味付けがされており、一筋縄ではいかないストーリー展開が読者の心を揺さぶっている。

 舞台となるのは巨大な街・九龍(クーロン)。人も物も町並みも雑然としている九龍は、だからこそ居心地がよくてどこか懐かしさを漂わせている。そんな町の不動産会社に勤務する鯨井令子が本作の主人公だ。

 鯨井には先輩社員がいる。工藤発という名の男性で、なんだかちゃらんぽらんというか飄々とした性格の持ち主。しかし鯨井は工藤に恋心を寄せていた。何気ない仕草や言葉にときめき、つい目で追ってしまう。そうした鯨井の気持ちに気づいていないのか、工藤はいつも軽口を叩き、鯨井のことをからかうように接してくる。それすらもまた、鯨井にとっては心地よい時間だった。

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 しかし、話を追うごとに物語は複雑に入り組んでいく。過去に工藤は自分と同じ姿をした人物と婚約していたらしい。この世界ではもうひとつの地球「ジェネリックテラ」の建設が進んでいる――。ひとつひとつはバラバラなピースとして提示されるが、徐々にそれらが組み合わされていくことで、鯨井が背負っている悲しい宿命のようなものが見えてくるのだ。

 自分の他に、自身と同じ姿をした通称・鯨井Bが存在していたのかもしれない。そんな驚愕の事実に辿り着いたときの、鯨井の胸中はいかばかりか。自分は本物なのか、偽物なのか。偽物だとしたら、どうすれば本物になれるのか。あるいは“本物になろう”と思うこと自体がおこがましいことなのか。戸惑う鯨井はやがて、「絶対の私になりたい」と思うようになっていく。

 一方で、工藤の胸の内を想像すると、これもまた非常に複雑だろう。かつて愛した人と同じ姿形をした別人が現れ、自分に思いを寄せているのだ。その好意をすんなり受け入れられないのもわかる。でも、じゃあ、ひとりの人間を「その人」たらしめる要素とは一体なんなのか。見た目だけではなく、たとえば思い出や関係値までもすっかりそのままインストールできていれば、偽物は本物になれるのか。それでもなんだか違う気がする。でも……。本作を読んでいると、そういった問いかけが無限に湧き出てくる。

 ただし、唯一はっきりしていることがある。それは、鯨井と工藤の幸せを願わずにはいられない、ということ。完全なハッピーエンドには行き着かないかもしれないが、それでもふたりが笑顔で寄り添い合う未来が訪れたらいいな、と思いながら、続きを待ち望んでしまうのだ。

 なお、同じく眉月じゅん先生による『恋は雨上がりのように 新装版』が2025年4月より全5巻で刊行開始し、第1、2巻は発売中、第3~5巻は5月19日に発売予定だ。カバーイラストが描き下ろしで、カバーはリバーシブル仕様となっているので、こちらもぜひチェックしよう。

文=イガラシダイ

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