入社3年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第1回「怪奇スポットを柴田理恵氏の涙で清めたい」

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公開日:2025/4/28

テレビ東京入社3年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。

こんにちは。
テレビ東京の牧島です。さて…。

お清めだ!
怪奇スポットを柴田理恵氏の涙で清めたい!

柴田理恵さんが怪奇スポットへ行く。
そこで、未練を残して亡くなった方にまつわる再現VTRを見て、柴田さんが心を寄せ、涙を流す。
その涙を火で炙って塩を作る。
最後に、その塩を撒く——。

これは、もう「お清め」の儀だ。

私は2000年生まれ。入社3年目のテレビ局員である。
昨年、柴田理恵さんとマユリカ中谷さんが流した涙で怪奇スポットを清める
ナキヨメ』(U-NEXTで配信中)という番組を企画し、放送した。

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(c)テレビ東京

この番組は、私が入社以来、最も実現させたかった企画であり、最も情熱を注いだ仕事だった。
だからこそ、連載1回目はこの番組がどのようにして生まれたのかについて話したい。

清き涙のリユース

柴田さんが心揺さぶるVTRを見て涙を流す。
これは、テレビ業界と柴田さんが長年かけて築き上げてきた、伝統芸能である。

私は、この文化が大好きだ。

普通、ここまで頻繁に泣く人を見たら、「いや、それって嘘泣きじゃない?」と勘ぐりたくなるものだ。
でも柴田さんの涙は、違う。
いつ、どこで流れようとも、誰よりも情感のこもった涙だと、人は思うのだ。

私はいまだ、この論理を説明できない。
柴田さんの涙には、何らかの魔力が宿っている!!

だから、私は入社以来、企画を考える上で「柴田さんの涙」に固執してきた。
この伝統芸能に、新たな展開を生み出したい。
そこで思いついたのが、「涙のリユース」だった。
要するに、柴田さんが涙を流すところまでで終わりなのはもったいない。この涙を、何かに役立てたいと思ったのである。

最初に考えたのは、柴田さんの涙でマングローブを育てる『感動のマングローブ』という企画。

地球温暖化、森林伐採……急速に減少しているマングローブの現状を伝えるVTRを見て、
マングローブに想いを馳せた柴田さんが涙を流す。

ここでのポイントは、マングローブは海水と淡水が入り混じった「汽水域」、つまり塩水で育つということ。
柴田さんの情感のこもった涙が、マングローブの苗にそっとこぼれ落ちる——。
その涙でマングローブはスクスク育つ。

しかし、この企画は通らなかった。
今思えば当然である。マングローブを育てるには、さすがの柴田さんといえど涙の量が足るまい。

※実際の企画書より引用

次に考えたのが、涙の塩でソルティドッグを作る『BAR NAMIDA』。

バーテンダーになった柴田さんが、悩みを抱えたお客さんの話を聞き、寄り添いの涙を流す。
そして、その涙を蒸留して塩を作り、カクテルグラスのふちに添える——。

これで、涙の量問題はクリアできる。
だが、企画を提出する前に私は自重した。
そのソルティドッグ、お客さんが飲むのは衛生的にアリなのかと。
…ナシだと思った。

それでも、ここで大きな収穫があった。
涙から塩を精製するというリユース法の発明である。

蒸留シミュレーション

本当に涙から塩はできるのか。
試してみることにした。

しかしながら、私は涙が全く出ない。
人間なのに恥ずかしい。
だから、妻に泣いてもらった。
不朽の名作ドラマ『Mother』(日本テレビ系)を見ながらよく泣いていた。
その涙をせっせとシャーレにいただく。こんなに情けないことはない。

そして、皿に採取した涙を中弱火で2分熱する。
じんわりと水分が飛び、皿の底に白褐色の物質が張り付く。

ヘラでこそぎ取り、恐る恐る、舐めてみる。
鋭くしょっぱい。しょっぱい以外の味がしない。
これは間違いなく塩だ。

「涙の塩を、何に活かせるだろうか?」
作家陣と議論を重ね、この問いを突き詰めた結果、
たどり着いたのが 「お清め」 だった。

怪奇スポットに涙の塩を撒く。
それで本当に浄化されるかどうか私には分からないが、少なくとも悪影響はあるまい。 むしろ亡くなった方を思って流した涙の塩なら、こんなに相応しい使い道はないだろう。

柴田さんの涙→塩→お清め
この一本の筋が通ったことで、企画は一気に実現へと進んだのだった。

ちなみに、迎えた本番の収録。柴田さんから採取できた塩がこちら。

(c)テレビ東京

私が何度も行った蒸留シミュレーションを遥かに超える量だった。
この塩を見て、共演のマユリカ・中谷さんが問いかけた。
「綺麗なものではないですよね?」
すると、柴田さんは言った。
「綺麗なんじゃない? だって涙は綺麗なものでしょ」。

私もそうだと思った。
なんとも無骨な見た目の塩には、飾らない素朴さとリアルがあったから。

そして、祈りと共に廃墟の地へと撒かれ、その役目を全うしたのである。

牧島俊介●テレビ東京入社3年目を迎えた現役テレビ局員。高校時代に、お笑いコンビ「虹の黄昏」に出会い、衝撃を受ける。自ら企画した番組は、柴田理恵・マユリカ中谷出演のバラエティ番組『ナキヨメ』など。

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