マンガを描くのは好きだけど、背景描くのは嫌いな人へ。苦手意識を消し去る人気講座が1冊の本に『MAEDAX式 苦手がなくなる漫画背景』【書評】

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公開日:2025/4/21

MAEDAX式 苦手がなくなる漫画背景 ~即戦力の漫画背景シリーズ~アシスタント背景美塾MAEDAX派 塾長MAEDAX/幻冬舎コミックス

 プロの漫画家に限らず、漫画を「描く」趣味を持つ人は年々増加傾向にある 。安価なペイントアプリの普及に加え、Web上には様々なハウツー情報が充実。各種SNSや、同人誌即売会など、作品発表の場に困ることもない。画材などの金銭的負担や、秘匿されがちな技術の習得に骨を折っていた一昔前とは打って変わり、今や漫画を描くことは、気軽に始められる趣味のひとつとなったのだ。

 しかし、いくら気軽になったとはいえ、漫画を描くことの難易度が下がったというわけではない。漫画制作には大小様々な難所があるが、その中でも多くの人がつまずきがちな障害といえば、なんといっても背景の作画ではないだろうか?

 漫画は懐が深い表現方法だ。キャラクターさえ描けていれば、背景がなくても漫画は成立させられる。誰もが泣ける名作漫画を描くことだってできるはず!……それはその通りだろう。しかし、説得力ある背景作画ができれば、その面白さを倍増させることができる。生きた背景の前に立つキャラクターは存在感を増し、状況の真実味は格段に増すのだ。

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 とは言っても、本格的に背景作画を頑張るのって、なんだか大変そうな印象。パース(遠近法)、アイレベル、スケール感、二点、三点透視図法……背景作画には、とかく複雑そうな専門用語が付きまとっている。興味はあれど、足がすくんで門前で立ちすくんでしまうのも無理からぬことだろう。

 そういった背景作画に苦手意識を持っている人にこそ、おすすめしたい一冊が、『MAEDAX式 苦手がなくなる漫画背景 ~即戦力の漫画背景シリーズ~』(アシスタント背景美塾MAEDAX派 塾長MAEDAX/幻冬舎コミックス) だ。本著は、かつて凄腕漫画アシスタントとして名を馳せたMAEDAX(前田耕作)氏 が発足した漫画背景専門教室「アシスタント背景美塾MAEDAX派」 の人気講座を書籍化したものである。

「背景作画の教則本は読んだことあるけど、上手くいかなかったんだよなぁ」。もちろん、中にはそういう人もいるだろう。理論を勉強したことがないわけではなく、チャレンジをした上で挫折してしまった人だ。書いてあることの半分くらいしか理解できない。教則本に従ったはずなのに、勉強する前よりもいびつな絵になってしまった……。こういった話も背景作画のあるあるである。しかし、本書はそんな人にこそ最適だと思う。

 というのも、本書は背景にまつわる理論をストレートに記しているだけのハウツー本の類ではないのだ。基礎知識こそ軽く触れているが、注目すべきはそれ自体ではなく、その基礎を活かす方法論である。

 フリーハンドで描いた下描きに対して、どうパースを適用すればいいのか、パースを使う際に失敗しやすいポイントはどこなのかなどといった描き手の都合、フィーリングを尊重するような、寄り添った説明に心を砕いているのだ。各項目の技術要点が簡潔な一文でまとめられており、詰まった際の再読が容易なのも嬉しいところ。こういった初級者に対するホスピタリティ精神は、背景美塾という実際の教室において、塾生たちの様々な悩みに向き合っていたバックボーンがあってこその観点なのではないだろうか。

 また、初級者に優しい本ではあるものの、決して上級者を蔑ろにしているわけでもない。描き手の理論にプラスアルファを添える技術理論は、知識を持っている人には新たな方法論を導き出す効果も期待できるだろう。この本を味方につけられれば、いつか本当に苦手がなくなり、背景を描くのが好きだと言える時がくるかもしれない。

文=一ノ瀬謹和

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