煙草のフレイヴァー/絶望ライン工 独身獄中記㊸
公開日:2025/4/30

すこし前に渋谷のクラブに遊びに行った。
知人が主催するパーティーで、私は音楽に合わせ愉快に踊るのが好きであるから、それを充分に楽しんだものである。
エントランスで帰りのエレべータを待つが、扉が開くと中はぎゅうぎゅう。
上の階でヒップ・ホップのイベントをやっていたらしく、若いヘッズ連中がすし詰めだ。
なんとか乗り込むと閉まる扉の向こうで誰かが叫んだ。
「50万人おめでとうございます!」
動き出したキャビンの中で、途端にザワつきだす若者達。
え?マジ?50万再生?ヤバくね?TikTok?すげーじゃんどゆこと?
キャップをかぶった白Tシャツが聞いてくる。
「50万て、何がっスか?」
あ、登録者です。チャンネル登録者。ユーチューブの。
6階から1階までは思ったより長い。自慢する意図もなくなんとなく答える。
すごすぎ!ヤベー、50万人て。有名人じゃん。MVとかスか?音楽系スよね?
皆音楽好きの気のいいやつらだ、狭い空間が静かな熱狂に包まれていく。
へへ、若者達にチヤホヤされるのも悪くはないぜ、などと思っていると唐突に右のノッポが聞いてきた。
「お兄さん、ヤバいっすね。マリファナ吸います?」
いや、吸わないよと固辞してエレベータを降りる。上記は脚色のない本当の出来事である。
大麻は禁止薬物であるが、近年優れた鎮痛効果や安全性が注目され、規制を緩和する国やそれに乗じて活発化するロビー活動等も見受けられるようになった。
サンプリングやグラフティ同様文化としての側面もあり、一方的に悪と決めつけるだけの論調に違和感を持つ方もいるだろう。
せっかくだから私の大麻(医療用を除く)への見解を表明する。
それは「タバコも大麻のように禁止にして厳しく取り締まって欲しい」である。
狂信的極嫌煙家の自分からすれば大麻もタバコも等しく大変な迷惑であり、それは飛行機の隣席の人が突然ジンギスカンを始めるような不愉快さである。
ジンギスカンは大好きです。鍋も持っています。
タバコ行ってきますなどほざいて業務時間中勝手に休憩をとるオッサン、あれは一体何なのかとずっと不公平さを感じていたし、それならアイスを食べるアイス休憩やペットカメラを覗くペットカメラ休憩も認められるべきだ。
あとタバコ持ったまま散歩中の犬に触りにくる痴れ者ども、貴様らには市中引き回しの上打ち首が妥当である。
これアイコスなんで、じゃあないんだよ。
私がこの国の独裁者になったら喫煙を免許制とし、現在60%くらいのたばこ税を10000%に引き上げて一箱22,000圓を定価とする。
隠岐などかつての流刑地に「喫煙者特別区(スモーカーズ・プリズン)」を設け、特区外での所持と使用は罰金と実刑をもって厳しく処罰、密輸入と製造は慈悲無き極刑に処す。
JTは100年前のように国営とし、喫煙免許の管理と流刑地の整備を基幹事業とする。
もう新たにタバコが製造されることはなく、輸入も禁止であるから流通分が無くなれば国内のタバコ供給は止まり、美しき嫌煙国家ジパングの建国は滞りなく完遂されるだろう。
喫煙を連想させる物は全て検閲され取り締まりの対象であるから、例えば宇多田の曲などは発禁になり、kenは木枯し紋次郎のように長楊枝を咥えてHONEYを弾く。
<第2回に続く>42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。