借金まみれでも銭湯は手放さない!崖っぷちアラサー女子と取り立て屋の凸凹ラブコメディー【書評】

マンガ

公開日:2025/5/14

 「取り立て屋のヤクザ」と聞くと、たいていの人は映画やドラマで描かれる過激なシーンを思い浮かべるだろう。強面の男が威圧的に迫り、返済に苦しむ債務者――そんな恐ろしげなイメージだ。

 しかし『ヤクザにお風呂で働かされてます。』(たかし♂/秋田書店)には、そうした一般的なイメージからは少々外れた取り立て屋が登場する。

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 主人公・みや子は夢破れ、パートナーにも恵まれず、悶々とした日々を送るアラサー女子。ついには父の死を機に、都会から逃げるように帰郷する。ところが、実家の銭湯にはなんと1000万円もの借金が残されていたのだ。

 絶望する彼女に手を差し伸べたのが、取り立て屋のヤクザ・蛇塚。「俺が優しくするんはみや子さんだけです」――そんな甘い言葉に翻弄されながらも、みや子は彼の力を借りて、借金返済と銭湯の再建をかけて動き出す。

 本作の見どころは、銭湯という場を通して描かれる人と人とのつながりの尊さ。そして物語全体に漂う、どこか懐かしくほのぼのとした空気だ。一見センセーショナルな作品タイトルとは裏腹に、作中では登場人物たちの人情味溢れるやりとりがユーモアいっぱいに描かれている。

 地域の人々に長年親しまれてきた銭湯。こぢんまりとした素朴な空間だが、みや子の父が生涯をかけて愛し続け、多額の借金を作ってまで守り抜こうとした場所だ。常連客との飾らない会話や、日々の何気ない営みに触れるうちに、みや子の心は徐々に癒されていく。無味乾燥な都会暮らしで擦り減っていた心が、ゆっくりとほどけていくのだ。

 そんな彼女になぜか肩入れする年若いヤクザの男・蛇塚のミステリアスなキャラクターも、本作の魅力のひとつだ。クールで無愛想ながらみや子を大切に扱い、ときに過保護とも思える態度を見せる彼。その行動の裏にある真意とはいったい――? 借金まみれのアラサー女子と年下ヤクザがタッグを組む、奇妙な生活の行方をどうか見届けてほしい。

文=ネゴト / 糸野旬

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