アニメ化決定『ふつつかな悪女ではございますが』。ネズミと仲良し、Gを素手でつかむ豪快令嬢の異色ファンタジー【書評】

マンガ

公開日:2025/5/16

ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』(尾羊英:コミック、中村颯希:原作、ゆき哉:キャラクター原案/一迅社)は、病弱な美少女・玲琳と、“悪女”の名をほしいままにする慧月という、まったく異なる境遇と性格のふたりが身体を入れ替えるところから始まる中華後宮ファンタジー。既存の「悪女」や「入れ替わり」ものの定型を軽々と飛び越え、読者の予想を良い意味で裏切ってくれる一作だ。

 主人公の玲琳は、“殿下の胡蝶”と謳われるほど美しく聡明な令嬢。だがある晩、悪女と名高い慧月の策略によって身体を入れ替えられ、玲琳は突然、追放、監禁され、さらには処刑の危機にまで追い込まれてしまう。普通なら絶望するような状況でも、玲琳は決して悲観しない。そう、この玲琳は、どんな逆境さえも楽しみに変えてしまうたくましい令嬢なのだ。

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 飢えた獣と同じ檻に入れられ、処刑されようという絶体絶命の場面でも、玲琳は毅然とした態度を崩さない。「死が怖くないのか?」と問われると、「噛まれる前から痛がっていては、体力が持ちませんでしょう?」とさらりと言い放つ。その凛とした佇まいは、思わず惚れてしまうほどの格好良さだ。

 そんな玲琳は、「この悪女め!」と罵られれば、「はい悪女です!」と即答するユニークさも持ち合わせている。ネズミとはすっかり仲良くなり、ゴキブリも素手で掴んでしまう豪胆さ。あばら屋に追いやられても「素敵な場所!」と目を輝かせて喜ぶその姿に、思わずクスッと笑ってしまう。

 長年、病弱な身体とともに生きてきた彼女にとって、健康な身体を得た今は、むしろ“ご褒美”のような状況。困難にもくじけず、軽やかに前へ進む玲琳の姿は痛快で、ページをめくる手が止まらない。

 一方、望んだ美貌を手に入れた慧月は、想像以上に虚弱な玲琳の身体に戸惑う。けれど、彼女の芯の強さや、そのまっすぐな優しさに触れるうちに、少しずつ心境にも変化が訪れるのだった。

 玲琳のまっすぐな生き方は、慧月にとどまらず周囲の人々の心にも影響を与えていく。彼女との関わりを通して、少しずつ絆が芽生え、最初は玲琳に入れ替わった慧月を嫌悪していた人々の態度も、やがてやわらいでいく。関係が確かに変わっていくその過程は、ただの“入れ替わりもの”では終わらない、心に沁みる温かな人間ドラマとして描かれている。

 TVアニメの制作も決定し、ますます人気が高まる本作。玲琳の底なしの明るさと、慧月の人間味あふれる変化が、アニメでどのように描かれるのかにも注目したい。

文=ネゴト /すずかん

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