恋愛初心者の高校生がはじめる“お試し交際”。不器用な恋の行方【書評】

マンガ

公開日:2025/5/15

彼女と彼の関係1 ~平凡な早川さんと平凡な三浦くんの非凡な関係~』(宇佐見よし:作画、六つ花えいこ:原作、くろこだわに:キャラクター原案/KADOKAWA)は、王道の純愛×学園ものながら、一風変わった設定とキャラクターのやりとりで、ひと味違った青春の魅力を描く一作だ。

 物語は、高校2年生の早川夏帆が、同級生・三浦拓海の「誰でもいいから彼女になってくれんかねー」という一言をきっかけに、“勢い”で交際を始めてしまうところから動き出す。

advertisement

 恋愛に憧れながらも未経験の夏帆と、「彼女がほしい」と願いながら同じく交際未経験の三浦くん。履歴書で自己紹介をし合い、「恋人とやりたいことリスト」を真剣に作成する。「クリスマスまでのお試し」というルールではじまった“お試し交際”は、まるで恋愛の教科書をなぞるかのようで、微笑ましくて愛おしい。

 なかでも印象的なのが、「彼氏っていいね。普通に喋っても大丈夫な男子って感じがする」――この一言に、異性との距離感に悩んできた夏帆の“安心”がにじむ。彼氏という関係を通じて、最初から話しかけてもいい、近くにいても大丈夫。そう思える相手ができたことで、彼女の心に少しずつ変化が生まれていくのだ。

 さらに心をくすぐるのが、三浦くんの「ポニーテールにしてほしい」、夏帆の「背中にぎゅってしてみたい」といった小さなお願いを交わすシーン。照れながらも応える2人の様子は、初交際のぎこちなさときらめきが詰まった青春そのもので、「いいなぁ…!」と思わず声が漏れてしまうような、むずがゆくて甘酸っぱい空気に満ちている。

 本作の魅力は、そうした可愛らしいやりとりだけではない。思春期特有の性別への意識や、距離感の表現、自意識との向き合い方など、心の成長がとても丁寧に描かれている。

 最初は好奇心で始まった関係が、やがて本物の想いへと育っていく――そんな瑞々しい変化が、この物語のいちばんの醍醐味だ。ときには不安になったり、すれ違ったりもしながら、2人は“恋をする”ことそのものを体験していく。読者もまた、その成長の過程に寄り添いながら、自分自身の初恋や青春時代を思い出さずにはいられないだろう。

 かわいくて、どこか不思議。そして思わずクスッと笑ってしまうような、愛おしい世界観。今どきの高校生の恋愛模様を描きながらも、いつの時代にも通じる“恋のはじまり”のときめきを閉じ込めた一冊だ。

文=ネゴト / すずかん

あわせて読みたい