反医療思想の家で育ちました。問題だらけの家庭で育った当事者による衝撃のノンフィクションコミック

マンガ

公開日:2025/5/26

この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

「家庭の中で起きていることは、外からは見えにくい」。『うちは「問題」のある家族でした』(菊池真理子/KADOKAWA)は、そんな“密室”のなかで苦しんできた10人の体験を描いたノンフィクションコミックだ。

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 ギャンブル依存症、DV、マルチ商法、児童虐待、貧困、陰謀論、反医療——。社会の片隅で確かに存在しているにもかかわらず、「家の中のことだから」と見過ごされ、当事者でさえ声をあげられないことが多い問題の数々。

 たとえば、反医療思想を持つ家庭で育った摩耶は、親が怪しげな団体に傾倒していることに違和感を覚えつつも、家庭内ではその思いを押し殺して生きてきた。学校でも人間関係がうまくいかず、次第に“浮いた存在”となってしまい、やがて心のバランスを崩し、リストカットや薬の過剰摂取に頼るようになってしまう。

 家庭環境が子どもの学校生活や心のあり方に与える影響は、大きい。とくに子どもは、親を選ぶことができない。「これが普通なのかもしれない」と思い込みながら、傷つき、耐え続けてしまうのだ。

 家庭内の問題は、外からは見えにくく、他者が安易に踏み込めるものではない。けれど、それは「見えにくいだけ」であって、決して他人事ではない。

 この作品は、“家庭という密室”で起きている現実を、個人の苦悩としてだけでなく、社会が抱える構造的な問題としても提示している。

 当事者たちは、葛藤し、苦しみを引き受けながらも家族と距離を取り、自分の人生を少しずつ立て直していく。安心できる家族に恵まれなかったとしても、社会に出て、自分を理解し、寄り添ってくれる人——友人やパートナーと出会うことで、人は前を向くことができるのだと、あらためて気づかされる。

 読後に残るのは、彼ら彼女たちへの同情や痛みだけではない。その姿を通して、「家族であっても、分かり合えないことはある」「居場所は、他にもきっとある」という、ささやかだけれど確かな救いのメッセージが胸に残る。

 家庭の問題に正面から向き合うことが難しい今の社会において、こうした一冊が存在すること自体に、大きな意味がある。家族とは何か。どう向き合えばいいのか? そんな問いをあらためて見つめ直すきっかけをくれる一冊だ。

文=ネゴト / すずかん

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