『孤独のグルメ』原作者・久住昌之が語る「ドラマと共通する"はしゃがない"魅力」。谷口ジローの絵が持つ「静けさ」と松重豊の「佇まい」《『それぞれの孤独のグルメ』Blu-ray&DVD発売記念インタビュー》

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PR 公開日:2025/4/30

――漫画で五郎さんが食べている時の表情や、その背景の無言の描写は印象的ですよね。

久住:もともと言葉の少ない漫画だから、谷口さんとしても、主人公が見ている風景をちゃんと見えているように描かないと読者に伝わらないだろうと思っていたんじゃないかな。だから、ドラマでもお店をちゃんと描いていますよね。やっぱり丁寧に描いたものは何度も繰り返し読むに堪えるし、ドラマも丁寧に作ったものは何度も繰り返し観るに堪える。ただ美味しそうというだけなら、2回も3回も観たくならないんじゃないですか。

――丁寧さとともに、店を出たあとに余韻を残してスッと終わる空気も特徴的ですが、当時はどういう意図があったんですか。

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久住:そこも“はしゃがない”ということかな。普通の人がひとりで食事をする時って、バーンと何かが起きて感動するとかじゃなく、あくまで淡々としたものじゃないですか。それを、ただ淡々と書きたいというだけ。そういうイメージが最初からあったんです。狙ったわけじゃなく、そういうものが自分の作風だと思ったから。でも、どれだけ売れても連載が終わってしばらくすると過去のものになっていくのが漫画の宿命なのに、こんなに長く読んでもらえて、今でも本屋さんに売っているのはすごくありがたいですよね。ドラマを観て漫画を読んだという人も増えて、それもまたありがたいことです。

――ドラマが長く続くなかで、原作と決定的な違いは時の流れだと思います。時代が変わって、街の風景が変わり、松重さんが年齢を重ねるのは避けられないことですが、そういう部分はどう意識されているんですか?

久住:いや、あえて意識しないです。漫画でも、よく「20年後の○○」みたいな作品があるけど、あんまり面白いと思わないんだよね。やっぱり漫画はファンタジーだから、変な現実感を入れずに淡々とやったほうがいいんですよ。実際、ドラマを機に漫画『孤独のグルメ2』を描くことになった時、『1』との間に十数年経っていたからすごく悩みましたけど、結局何も変えずにしらばっくれた(笑)。ドラマと漫画は違うとしても、店は本当に今現実にあるわけだから。そこで真面目に同じスタイルでやればいいんじゃないかと思っています。

――五郎さんが歳を取っている表現などは足さなくていいと。

『それぞれの孤独のグルメ』より

久住:必要ないと思う。そこは毎年ドラマを作っていたのが良かったよね。それこそ10年ぶりに『2』を作ったりすると違いが出ただろうけど、毎年ドラマと一緒に松重さんも歳を取っていったから、自然と時間が流れていった感じがする。ただ、タバコは吸わなくなったり、そういうところはさりげなく時代に合わせながら。原作では新幹線の座席でも吸っていて、今じゃ考えられない(笑)。

――そういう変化としては、五郎さんのようにお酒を飲まない人も増えましたよね。

久住:増えましたね。でも、タバコほどじゃないでしょ。お酒の流行りは変わってきたけど、下戸という設定に対しての印象は変わらないです。

――ご自身としては、年齢を重ねて、表現したいものに変化を感じますか?

久住:そうだろうけど……ただ新しい漫画の連載について考える時に、今描いて、今面白くなるものはなんだろうと考えるだけですね。“この年齢だから”みたいな感覚はない。だって、同じ年齢でもいろんな人がいるじゃない? だから、できないことはせず、自然に。

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