SNSで万バズのイケメン×カメラ女子。京都が舞台のラブコメマンガ『近づいて、スピカ』【書評】

マンガ

公開日:2025/5/15

 2人だけの秘密な関係、と聞くと刺激的な恋や危険な恋を想像する読者も多いだろう。だが『近づいて、スピカ』(fuyu/KADOKAWA)は、そんな予想を良い意味で裏切る、静かで丁寧なラブストーリーだ。京都の街を舞台に、穏やかで繊細な恋模様が静かに育まれ、ときめきと癒しを運んでくれる。

 主人公の紺野苑実は、文学部に通うカメラ好きの大学生。彼女が密かに付き合っているのは、同じ学部の有名人・宮間瑶だ。瑶はSNSでバズるほどのルックスを持ち、女子たちの憧れの的。苑実は彼の凛とした美しさに見惚れながら、日々彼の写真を撮っているのだ。2人の関係は、とても穏やかでスローペース。大きな事件や急展開はないものの、お互いを思いやりながら、少しずつ関係を育てていく。瑶が苑実の前だけで見せる表情の変化は印象的で、普段無表情な彼の笑顔や照れた顔に、読者の心もつかまれるはずだ。

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 苑実が撮る瑶の写真は非常に美しく、SNSで数万の「いいね」を集める。もちろん瑶自身がもともと美しいこともあるが、写真には瑶のルックスの良さだけでなく、苑実のまっすぐな愛情が写し出されている。苑実は、瑶の外見だけでなく、その佇まいやふとした仕草にまで魅了され、シャッターを切る。

 秘密の関係であっても、ファインダーを通せば2人だけの世界が広がる。そこではありのままの2人が、素直な気持ちで向き合うことができるのだ。そんな恋の形に、思わずときめいてしまう。描き下ろしでは、瑶の視点からの想いも描かれ、2人の相思相愛ぶりにキュンとさせられるだろう。

 作中で鮮やかに描かれる、京都の街並みにもぜひ注目してほしい。京都水族館や京都タワーなどの名所に、京都好きならハッとするはず。そのほかにも寺社やレトロな喫茶店、夕暮れの川辺など、ノスタルジックな風景と調和しながら、ゆるやかに物語は進んでいく。柔らかで静かな恋模様に、優しい気持ちになれる一冊だ。

文=ネゴト / fumi

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