“結婚=幸せ”は幻想だったのか?毒義母&ドケチなマザコン夫との30年戦争を描く『義母クエストリターンズ』【書評】

マンガ

公開日:2025/5/16

義母クエストリターンズ ~ヤバすぎる義母との負けられない30年戦争~』(赤星たみこ:漫画、かづ:原案/KADOKAWA)は、毒義母とマザコン夫という過酷な家庭環境に翻弄されながらも、自分らしい生き方を模索し続ける女性・かづの姿を描いた、実録コミックだ。

 本作の主人公・かづは、幸せな未来を思い描き、相手の親の反対を押し切って夫・秋彦と結婚。だがその矢先、「縁を切ると約束していた」はずの彼の母による“嫁いびり”が始まる。干渉、支配、そしてエスカレートしていく嫌がらせ…。やがては下着を切り刻むという、常軌を逸した行動にまで及ぶ。夫はそれに対して一貫して無関心。むしろ義母の味方をするような態度すら見せる。

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「結婚=幸せ」。そんな幻想が音を立てて崩れていくなか、それでもかづは、ただ耐え忍ぶだけではない。“スルー力”という心の防御術を身につけ、時に受け流し、時に毅然と立ち向かいながら少しずつ人生を取り戻していく。

 嫁姑問題は「どこにでもある話」と軽視されがちだが、本作ではそれを、個人の努力や我慢では片付けられない“社会の課題”として描いている。嫁という立場、母としての責任、そしてひとりの人間としての尊厳——それらをめぐり、かづが30年という歳月をかけて闘ってきた軌跡は、決して他人事ではない。

 義母の異常な言動、夫の無責任な態度に、読む側も怒りや戸惑いを覚えるだろう。だが同時に、そこであきらめず、前に進もうとするかづの姿に、共感や勇気をもらえる作品でもある。

 もし、結婚相手の母親が想像を超える嫌がらせをしてきたら、自分ならどうするだろうか。結婚する前に気づけなかったのか? 離婚という選択肢は? という疑問も浮かぶが、当事者になってみなければ分からない葛藤もある。最初は優しく、絶対的な味方だったはずの夫が、結婚を機に別人のようになってしまうという現実は、ない話ではないだろう。

 嫁姑問題に悩んでいる人。結婚生活に違和感を覚えている人。そして、「家庭」という名のもとに“我慢”を強いられている人に手に取ってもらいたい。読み進めるなかで、自分ならどうするか。もし身近な誰かが同じ境遇にいたら、どう寄り添えるか。そんな問いを投げかけてくる一冊だ。

文=ネゴト / すずかん

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