井上瑞稀さんが選んだ1冊は?「この作品の本当のすごさは、人の生と死をしっかり描いているところです」

あの人と本の話 and more

公開日:2025/5/15

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年6月号からの転載です。

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、井上瑞稀さん。

(取材・文=松井美緒 写真=TOWA)

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 マンガが好きで、寝る前など隙間時間にはいつも読んでいるという井上さん。『ANGEL VOICE』は数年前に知人から薦められて手に取った。

「『SLAM DUNK』や『ROOKIES』のような熱いスポーツマンガが昔から大好きなので、この作品はドンピシャでした」

 不良の溜まり場だった市立蘭山高校サッカー部が、「最強の4人」と呼ばれる1年生らによって生まれ変わる、その道程に井上さんは惹かれた。

「“選ばれし◯人”みたいな少年マンガの王道の設定、かっこいいですよね。でもこの作品の本当のすごさは、人の生と死をしっかり描いているところです」

 部員たちを支えてくれていたマネージャー・麻衣が、闘病の末、亡くなってしまうのだ。35巻、高校選手権予選決勝の最中のことだった。

「ハーフタイム中に麻衣の死を知らされた部員たちは、涙を流しながら後半のピッチへと向かう。そのシーンが1巻のカバー絵になっているんです。作者の方は、最初からここまでの長いストーリーを考えていたのかと感動しました。美しい歌声でいつも励ましてくれた麻衣の思いに勝利で応えようとする、部員たちのまっすぐな姿に大号泣しました」

 6月に幕を開ける井上さんの主演舞台『W3 ワンダースリー』もマンガが原作だ。手塚治虫が60年前に世に送り出した普及の名作SFである。今回の舞台では、原作の世界観をリスペクトしながら、新たな『W3』を創出する試みがなされている。

「例えば僕が演じる真一は、原作では少年ですが、今回は24歳です。大人しくて、受け身で、まだ思春期が続いているような青年。しばしば何かを言いかけてやめてしまう。僕もそういうところがあるので、真一の気持ちはよくわかります」

 W3ことボッコ、プッコ、ノッコは、真一にとって特別な存在になる。

「W3の前では、真一は表情も心も柔らかくなる。彼らは真一を安心させてくれるんだと思います。W3との出会いや、秘密諜報員である兄の活動に触れて、真一が成長する。その過程をお見せできればと」

「どうやったら地球上から争いをなくすことができるのか」。原作同様、舞台もこのメッセージを最も大切にしている。

「60年経ってもなお、メッセージが意味を持ってしまうことに、僕は少し悲しくなりました。でも、だからこそ、今、この舞台をやることが必要なんだと思います」

ヘアメイク:浅津陽介 スタイリング:小林洋治郎 衣装協力:デニムジャケット3万8500円(DIGAWEL/DIGAWEL 1 TEL03-5722-3392)/シャツ2万9700円(SEUVAS/Sian PR TEL03-6662-5525)(すべて税込)、その他スタイリスト私物

いのうえ・みずき●2000年、神奈川県生まれ。KEY TO LITのメンバー。近年の主な出演作に、舞台『ルーザーヴィル』『劇走江⼾鴉〜チャリンコ傾奇組〜』、映画『弱虫ペダル』『おとななじみ』、ドラマ『なれの果ての僕ら』『君が死ぬまであと100日』『95』『霧尾ファンクラブ』など。

『ANGEL VOICE』(全40巻)
古谷野孝雄 秋田書店少年チャンピオンC 各660円(税込)
千葉県市立蘭山高校のサッカー部には“ワル”が集まり、ケンカなら「県内最強軍団」と皮肉られていた。部の再生のために就任した黒木監督は、「最強の4人」と称される1年生の成田、乾、所沢、尾上を勧誘。「天使の歌声」で部員を励ますマネージャー・高畑麻衣も加わり、新生・市蘭サッカー部の奇跡が始まる。

舞台『W3 ワンダースリー』
原作:手塚治虫『W3(ワンダースリー)』 脚本・作詞:福田響志 演出・上演台本・作詞:ウォーリー木下 音楽監督・作曲・作詞:和田俊輔 出演:井上瑞稀、平間壮一、永田崇人、松田るか、相葉裕樹、彩吹真央、中村まこと、成河ほか 東京公演:6月7日〜29日(THEATER MILANO-Za) 兵庫公演あり
●銀河連盟は地球の存続を判断するため、W3と呼ばれる調査員のボッコ、プッコ、ノッコを地球に派遣。3人はウサギ、カモ、馬に変身し、小川村の青年・星真一と行動をともにする。