「パパは僕よりスマホのほうが大事なのかな」父親から愛されなかった子どもの“本音”『僕はお父さんが好きじゃない』【書評】

マンガ

公開日:2025/5/28

 親子関係に、これが正解だと言えるものはない。それでも、“親だから”、“子どもだから”と、どこかで期待してしまう気持ちは、きっと誰の心にも少なからずあるのだろう。
僕はお父さんが好きじゃない』(まるたおかめ/KADOKAWA)は、父親から愛されていないと感じ苦しむ子ども・なつの視点を中心に、父や母の視点も交えながら、家族という関係の中で揺れ動く心の機微を描いた漫画だ。

 子ども時代のなつにとって、父との記憶は、温かく楽しいものではなかった。遊んでほしくても、父はゲームばかり。ときには面倒くさがってクローゼットに隠れてしまうこともあった。妹ばかりを可愛がる姿に、「なぜ自分には愛情を向けてくれないのか」と悩み、戸惑い、幼い心は静かに傷ついていく。

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 淡々と綴られる語り口は一見ドライにも映るが、その奥には、「嫌い」という感情と同じくらい、「それでも愛されたかった」という深い願いが静かに息づいている。長い孤独の中で積み重なっていった葛藤。そしてその中にも、小さく灯り続けていた希望。抑えた表現だからこそ、にじみ出る想いが胸に迫ってくる。

 けれど、これは父親を一方的に責める物語ではない。父の視点では、彼もまた“初めての育児”に戸惑い、自信を失い、心が折れていたことが明かされていく。育児は思い通りにいかないことの連続であり、なつの父・さとるのように、理想とのギャップに戸惑い、心が追いつかなくなる親も少なくないのかもしれない。

 そして、そんな父と息子の関係をどうにかしようと向き合おうとする母の存在も、なつにとって大きな支えとなっている。母は、父へのどうしようもない思いや、傷ついた心をそっと受け止めてくれる存在だ。なつの気持ちに寄り添い、ときに一緒に悲しんでくれるその姿が、父との関係に揺れるなつの心をやさしく支えている。

 親もまた、完璧ではない。悩みながら、不器用に愛し、もがきながら生きているひとりの人間にすぎない。そのことにふと気づいたとき、ほんの少しだけ、心の痛みがやわらいでいく。

『僕はお父さんが好きじゃない』は、家族との関係に悩んだことのあるすべての人に、そっと手を差し伸べてくれるような1冊だ。

文=ネゴト / すずかん

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