梅干しだって手作り。丁寧な暮らしをする「餓鬼」の、日々を楽しむ知恵とシュールな可愛さが癖になる!【書評】

マンガ

公開日:2025/5/17

「丁寧な暮らし」昨今よく耳にするキーワードだ。忙しない日常の中で立ち止まり、自分の時間を大切にすることは、心を豊かにしてくれる。だが、そんな丁寧な暮らしを楽しんでいるのが「餓鬼」だったら……?
 
 餓鬼は飢えと渇きに苦しむ異形の者として、普通なら恐れられる存在だ。しかし『丁寧な暮らしをする餓鬼』(塵芥居士/KADOKAWA)の餓鬼は、非常に優しく清らかな心を持っている。

 山奥で静かに暮らしながら、梅干しを干したり、丁寧に埃払いをしたり、断捨離の難しさに頭を抱えたり……。決して派手なことはせず、とても質素で静かな生活を送っている。その暮らしはまさに丁寧そのもの。

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 読み始めは「なんで餓鬼が丁寧な暮らしを?」と笑ってしまうのに、気がつけば自然に受け入れてしまっている。シュールさと可愛らしさが同居する不思議な魅力は、癖になるだろう。

 昔ながらの絵巻物や歴史画風のテイストで静かに紡がれる日常の連なりは、読んでいて心地が良い。会話や文字が少ないので、餓鬼の暮らしをそっと覗き見しているような気分になる。

 また、「テイクアウトできる美味しいお店は把握済み」「SNSを使った自己顕示欲との戦い」など、読者が共感できるような内容も多い。サイフォン式コーヒーやDIYに悪戦苦闘する餓鬼の姿には、「わかるよ!」と思わず応援したくなる。

 餓鬼の実践するささやかな暮らしの工夫や楽しみ方を見ると、私たちの持つ「丁寧な暮らしとはこうあるべき」という頑固なこだわりが和らぐような気がする。

 丁寧な暮らしというのは、何も難しい料理やセンスの良い部屋を作ることではない。本作の餓鬼のように、自分の生活にしっかりと向き合う時間を持つことなのかもしれない。

 本作を読めば、慌ただしい日々の中でも自分自身を大切にする時間をとろうと思える。ちょっぴり不思議で愛おしい1冊を、ぜひ読んでみてほしい。

文=ネゴト / fumi

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