「意地悪をした自覚がない」という子ども。娘をいじめる“放置子”との距離感に悩む母親の姿を描いたコミックエッセイ。『コウノドリ』ふらいと先生のコラム付き!【書評】

マンガ

公開日:2025/6/17

白目みさえ / KADOKAWA

 最近よく聞く“放置子”の存在。「子どもの友だちが自分の親のように甘えてくる」「まだ小さいのに夜遅くまで外を歩き回っている」など、親からの関心が薄く、放置されている故に気になる行動が多い子のことを、こう呼ぶそうです。同じように子を持つ親なら、放置子を助けたくなるかもしれません。けれど、もしわが子がその子に意地悪をされたり、自分が疲弊するほどその子に頼られたりしたら、同じように思えるでしょうか。また、その子の親の存在が見えにくいため、学校や学童でトラブルが起きた時の対応にも難しさがあります。

放置子の面倒を見るのは誰ですか?』(KADOKAWA)は、臨床心理士・公認心理師であり、スクールカウンセラーの経験をもつ漫画家・白目みさえさんによる新刊です。放置子からわが子に向けられるいじめがどんどんエスカレートする様子をスリリングに描きながら、子どものトラブルに介入する時や、学校に相談する時の注意点などを紹介。周りの放置子に悩む人たちに救いの手を差し伸べてくれます。

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 しずかと、その娘である莉華が放置子のりつと出会ったのは、新1年生の入学説明会が最初でした。親の同伴がなく、ひとりで来ていたりつの制服採寸を手伝ったことをきっかけに、しずかは何かとりつに頼られるようになります。ある時、線引きをするつもりでりつの要求をきっぱりと断ったしずか。すると、りつはその場にいた莉華のランドセルを後ろから引っ張り…。放置子が子どもより大人の気を引こうとしたり、満たされない承認欲求をその子どもに向けたりするのは、よくある行動パターンのようです。

 エスカレートするりつから莉華へのいじめ。同時に、りつをどんどん嫌いになるしずか。その一方でしずかは、自分がりつのために何かするべきなのかという責任感に駆られます。そんなある日、莉華がりつに蹴られて倒れ、怪我をするという事件が…。担任の先生を訴える声に力が入ってしまうしずか。自分もわが子が同じ目に遭ったらそうなるに違いない、と共感する人は多いのではないでしょうか。

 後半では、しずかが専門家たちのサポートを借りながら、りつと莉華のトラブルに向き合っていきます。大きく物語が動いたのは、臨床心理士・公認心理師であり、しずかの友人、そして本書の著者・白目みさえさんの登場シーンでした。この物語は実際に白目さんの友人の体験をもとにしたセミフィクションなのだそう。みさえは、「うちの子が良ければそれでいいって…ひどいお母さん…」と自分を責めるしずかに、「自分の子どもが一番大事なんて当然のことでしょ?」と優しい言葉をかけるのです。

 放置子であるりつは、学年主任の先生やスクールカウンセラーたち何人もの大人たちから見守られていました。話し合いの中で、しずかは衝撃的な事実を知らされます。りつは「莉華が大好きで、意地悪をしているという自覚がない」と話していたというのです。だからといって、「わからないから…どうして加害者が支えられるの…」としずかの怒りが収まらないのも無理はありません。けれど、ここで娘の莉華が思いもよらぬ言葉を口にするのでした。「りっちゃんは何が悪いのかわからないだけ。先生たちがお友だちと仲良くするやり方教えてあげて」と。

 本書には、小児科医・新生児科医で、医療マンガ『コウノドリ』の取材協力医師である今西洋介先生(ふらいと先生)のコラムも掲載されています。ふらいと先生によれば、他の家庭の問題にどこまで介入するかは本当に難しい問題。だからこそ専門家の力を借りることが大事で、わが子と相手、両方の気持ちをケアすることが、いじめの連鎖を断ち切れるのではないかと提案しています。しずかと同じような立場なら、感情的になって自分や相手を責めるのは仕方のないこと。けれども、そんな時こそ冷静になり、視野を広げることの大事さが伝わってきました。

 お先真っ暗に思えたお話は、やがてハッピーエンドへと向かいます。子どもへの向き合い方も同じではないでしょうか。自分では解決できないと思うような問題も、そのまま諦めるのではなく、少し心を開いて誰かに話をするだけで、解決の糸口につながることが本書にも描かれていました。本当は誰も悪気はないのに、お互いを理解しないことで誰かが悪者になり、誰かが傷ついてしまうのは不幸なこと。周りの力を借りてでも、お互いの気持ちを知ることがはじめの一歩であり、この1冊がその一歩を踏み出すきっかけになればと願わずにはいられません。

文=吉田あき

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