子育て経験ゼロの50代が父親デビュー! ふたり暮らしの感想を娘に聞いてみると【書評】

マンガ

公開日:2025/5/27

父娘ぐらし 55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話』『父娘ぐらし それから 55歳まで独身だったマンガ家が8歳の娘と過ごした4か月間』(渡辺電機(株)/KADOKAWA)は、ギャグ漫画家として知られる渡辺電機(株)さんがおくる至極の子育てコミックエッセイだ。

 50代まで独身を貫いていた著者は、それまで自分が子どもを持つ未来など想像したことすらなかったという。そもそも子ども好きではなかったし、周囲が次々と結婚するのを見ても、自分とは縁遠い世界のように感じていた。

advertisement

 ところがふたりの娘をもつ女性との結婚を機に、55歳にして思いがけず父となることに。仕事の都合もあり入籍後すぐに同居というわけにはいかず、ひとまず上の娘だけが一足先に引っ越してくることが決まる。こうして、少し前まで赤の他人だった女子小学生とのふたり暮らしが唐突に幕を開けたのだが――。

 本作の魅力は、著者が娘との暮らしの中で直面した驚きや戸惑い、そして喜びの数々が、やさしいタッチで繊細に描き出されている点だ。

 大阪に戻る母親を見送った後、出店のたこ焼きやアイスをねだられ、しぶしぶ買い与えた初日。おそるおそる初の手作り弁当を用意した朝。虫歯治療を受けたご褒美のケーキを頬張る娘に向かってそっと、「大阪から東京に来て…良かったと思う?」と尋ねたこと。

 エピソードの一つひとつは、特段珍しい出来事ではないかもしれない。けれど、普通の親子が当たり前にしていることが、ある人にとってはまるで宝物のように感じられることもあるのだ。

 人生における幸福の形は、子どもを持つことだけではない。一昔前までは「結婚して子どもを持つのが幸せ」とする価値観が根強かったが、現在はそれに当てはまらない生き方を選ぶ人も増えている。
 
 それでも、未来のどこかで考えが変わることもあるのかもしれない。たとえば娘との生活に幸福を見出した著者のように、今はまだ想像できなくても、人生はいつか思いがけない方向に進むものなのかもしれない。そんなさまざまな可能性を感じさせてくれる作品だ。

文=ネゴト / 糸野旬

あわせて読みたい